このお話は、舌癌ステージ4aと診断された筆者が、入院から、舌亜全摘を含む大手術、術後の内部出血による緊急手術、二度のICU入室、一般病棟での嚥下リハビリ開始、そうした癌に立ち向かう姿を、日記形式で記録した物語です。筆者は手術前から舌の痛みと食事困難に苦しみ、短期間で大きく体重を落としていました。そして、気管切開、両側頚部郭清、舌亜全摘、腹直筋皮弁移植を受け、痛みから解放されることを望みます。しかし術後には、数値に表れにくい強烈な息苦しさ、飲み込めない唾液、睡眠不足、声や食事を失った現実が重なります。緊急手術と再ICUを経て、筆者は死を望むほど追い詰められますが、「一度死んだことにして新しい人生を送る」と考え直します。その後、飲水・食事への希望として嚥下テストに臨むものの、思うように飲み込めず絶望します。それでもPAP作製とリハビリの開始と、立ち向かっていく記録です。病はいつ誰のもとに降りかかるかわかりません。そうしたときに道しるべとなる貴重な記録です。
ここまで読んで一番強く感じたのは、この作品が単なる「舌癌の入院記録」ではなく、一人の人間が、自分の身体を突然失っていく過程を、その時々の感覚のまま記録した作品だということです。特に、手術後の息苦しさ、意思疎通の難しさ、再手術、そしてホワイトボードに「いっそのこと死なせて」と書いた場面は、読者としてかなり重く受け止めました。それでも作者は、自分の苦しみを過剰に dramatize することなく、「この時はこうだった」「ここは記憶が曖昧だ」と淡々と書いている。その距離感がかえって生々しく、読んでいて「これは物語ではなく、この人が実際に経験した時間なのだ」と強く感じます。