【六年ぶりに幼馴染と再会したら、なぜか同棲と猛攻が始まった。】SS『幸せの妖精』

あすれい

第1話

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 第26話以降の、とある日のお話


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 里桜は昔から照れ屋な女の子だった。


 今でもそこはあまり変わっていない。突然俺に褒められて照れまくるのがそれである。自分はやたらとグイグイ来るくせにな。


 まぁ、いいや。あれは俺達が小学1年生の話だ。


 その日は里桜の誕生日で、俺は里桜の家で行われる誕生日会に招待されていた。


 ──いや、ちょっと待てよ。そういえば里桜の誕生日って……俺達が再会した前日じゃねぇかっ!


 やっべ……。いきなりの里桜との共同生活に混乱してすっかり忘れてたぞ。お祝い、しそこねちまった。


 くっ……今となっては後の祭りか。次の里桜の誕生日には、会えなかった六年間の分も含めて、盛大に祝ってやらねぇとなぁ。


 ──閑話休題


 誕生日プレゼントを手に家を訪ねた俺を出迎えてくれたのは里桜だった。当然その日は里桜が主役、フリフリで可愛らしい服に身を包み、弾けるような笑顔を浮かべていた。


 当時はまだ純真無垢で素直だった俺はその姿に見惚れて、


「わっ……! 里桜、すっごくかわいいっ」


 心に思い浮かぶままを言葉にした。その瞬間、里桜の顔は真っ赤に茹で上がる。


「あぅ……そんなこと、ないよぉ……。もーっ、はずかし……」

  

 両手を頬に当て、もじもじする里桜もまた可愛らしかった。追加で褒めちぎって、更に里桜が照れたのは言うまでもない。

 

 といった具合に、里桜は照れ屋な女の子だったのだ。


 ***


 突然だが、里桜の家事スキルは完璧である。


 料理については、初日で完全に胃袋を掴まれるほどのレベルにある。おかげで俺は、毎日3食、舌も胃袋も幸せいっぱいにしてもらっている。


 里桜のすごさは、料理だけでなく、洗濯から掃除まで一部の隙もないところだ。


 里桜の干した洗濯物を取り込んで畳むのは俺の役目だが、乾いた洗濯物を見れば皺の一つもない。


 俺と里桜の暮らす部屋、その共有スペースであるリビングは整理整頓と清掃が行き届いており、わずかな埃すら見つけるのは至難の業である。


 恥ずかしながら、俺の部屋にも時折里桜の手が入っていたりするくらいだ。


 まぁここまでであれば、キレイ好きで家事の得意な人間にとっては普通のことかもしれない。里桜の異常さは、掃除をしている姿を俺に全く見せないというところにある。


 自室がとっ散らかり始めて、そろそろ片付けなきゃなぁなんて思っていると、知らないうちにキレイになっているのである。


 そのおかげで、俺は常に快適な生活ができているというわけだ。


 さて、そこで本題だ。ここまででなにをいいたいかと言うと、俺はとても里桜に感謝しているということだ。


 すっかり仲直りを果たし、里桜への想いを自覚した俺としては、ここらでその感謝を伝えておくべきだって思うんだよな。なんなら、お礼に里桜の望むことをしてやりたいとも考えている。


「なぁ里桜。いつもありがとな」


 とある日の夕食の後、俺は皿洗いをしながら何気ない雰囲気を装って里桜へと告げてみた。まだダイニングでお茶を飲んでいた里桜は、キョトンとした顔を俺に向けてくる。


「んー? 急にどうしたの隼くん?」


「いやほら、飯は抜群に美味いし、部屋はいつもキレイだし。すっげぇ助けられてるなって思ってさ」


「あぅ……それは……」


 里桜のやつ、照れ方も昔から変わんねぇのな。やっぱこういう顔も可愛いんだよ。


「そんな照れることねぇだろ。ただ礼を言ってるだけなんだから」


「そうだけどぉ……でも、でもねっ! お料理は確かに私が作ってるけどぉ……お掃除はきっと妖精さんがしてくれたんだよ……?」


 ……なに言ってんだ? 照れすぎておかしくなったか? まぁ面白そうだから付き合ってみるか。


「へぇ、そうなのか。里桜はその妖精さんとやらを知ってるのか? 俺もどんな妖精なのか気になるなぁ」


「そっ、それは……。えっとぉ……とっても可愛くてね、恥ずかしがり屋さん、なんだよ?」


 ……まんま里桜じゃん。


「ふぅん、そっかぁ。じゃあ、俺の前には出てきてくれねぇかもなぁ。会えたら日頃のお礼に、なんでも一つお願いを聞いてやろうと思ったんだがなぁ」


「ふぇっ?! なん、でも……?」


「ん? つっても俺にできることに限るけどな。でも恥ずかしがり屋で姿を見せてくれないんじゃしょうがねぇよな。この話はなかったことにすっかな」


「あぁっ、待って待って!」


 不意に里桜が慌て始める。お願いをなんでも一つ、というのが効いたのかもな。


「ん? なんで里桜がそんなに慌てんだよ」


「あの、ね? ちょっとその妖精さん、呼んでみるから、待っててくれる……?」


 呼べるんかいっ?!


 どうやらこの短い時間で、里桜の頭の中で妖精の設定が出来上がっているらしい。


 里桜は祈るようにじっと目を閉じて、


「妖精さん、妖精さん。隼くんがお礼をしたいそうなんで、出てきてくださいな」


 わざとらしく、俺に聞かせるように呟いた。そしてゆっくりと目を開けると、


「……私が、その妖精ですっ。今は……この身体を借りてお話してます……」


 いや……なんだこれ?

 よくわからんが、こっちが恥ずかしくなるやつ始まったぞ……。


 しかしこれじゃ妖精っていうより、幽霊かなんかに憑依されてる感あるな。幽霊って単語だけで里桜はビビるから言わねぇけどな。


 とりあえずこれも乗りかかった船か。しゃーねぇ、最後まで相手してやるとすっかね。


「おっと、妖精さん。初めまして。わざわざ出てきてくれてありがとう」


「いえいえ……よいのですよ。それより、なんでもお礼をしてくれるとか……?」


「あー、えっと。なにかしてほしいことがあれば?」


「なら……頭、撫でてほしいなぁ……?」


 おーいっ、設定ガバガバすぎんだろ。

 素に戻ってるぞ。


 てか、お願い可愛いなっ!


 まぁ里桜は昔から撫でられるの好きだったしな、その程度でいいなら早速叶えてやるか。タイミングよく皿洗いも終わったことだし。


 俺は濡れた手をタオルで拭いて、椅子に腰を下ろしたままの里桜の後ろに立つ。そして、


「んじゃ、ちょいと失礼するな」


 里桜の頭に手を置いて、ゆっくりと感謝を込めて撫でる。


「こんな感じでどうだ?」


「えへへ……最高だよぉ」


 残念なことに顔は見えないが、ふやけた声になっているので本当にお気に召してくれたようだ。


「それはよかった。世話かけるけどさ、これからも頼むな、里桜」


「うんっ……頑張るぅ──って、里桜じゃないもん、妖精さんだもんっ!」


「自分で妖精さん言うなや。いいんだよ、変な芝居はもう。そろそろ素直に受け取ってくれって」


「うぅ……だってぇ。隼くんに褒められるとね、ほわほわしてあわあわしちゃうんだもん……」


「ったく、そういうところも変わんねぇのな」


 賢いくせに語彙力ふわっふわになってるしさ。


「そりゃ、私は私だし……?」


 うん、やっぱり昔と同じで、俺の大好きだった里桜のままなんだよな。


 それがすごく嬉しいことのような気がして。


 お礼のはずだったんだけどなぁ。なんか俺ばっか得してる気分になるな。まぁでも、もしかすると俺にとっては里桜が幸せを運んでくる妖精みたいなもんなのかもしれんな。


 六年間で凝り固まった後悔も、たった2ヶ月で跡形もなくしてくれたし、里桜と過ごす時間は楽しくて、心が満たされる。


 ずっと……大事にしねぇと。


 そんなことを考えつつ、俺はしばらくの間里桜の頭を撫で続けたのだった。


 ちなみにこれは余談なのだが──この翌日、荒れ始めようとしていた俺の部屋が、また知らないうちに驚くほどキレイになっていたとさ。


 まったく。頭撫でたくらいで気合い入り過ぎなんだよ、里桜は。これじゃ礼が追いつかねぇっての。

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