第5話ナニも寄せ付けないこの街で

「よろしく」

痛い。ある男が普通に握手を求めたかと思ったが思いっきり握ってきた上に俺の耳を男の口の前に体ごと手繰り寄せる。

「•••」

何を言っているのか分からない。

理解をするために全力で頭を回したが分からない。聞こえなかった。


「どけ!、お前ら!」

男は思い切りエリックに殴られて倒れた。

「てめぇ、どのツラ下げてここにきた?、ネズミ野郎」

「うっ」

男は目の上を思い切り殴られたのか目が、一撃にも関わらず青くなっていた。

「やめろ、兄さん!」

たくさんの人をかき分けて1人の男がエリックに向かって走ってきて、エリックを押さえつけた。

「兄さん、こんなとこで殺し合いなんてしたら保安局がくる、やめてくれ」

その男はエリックの弟だった。俺には、色々な理解が追いつかない。

エリックは我に帰ったのか力を抜いていた。

「そこの君、あれを押さえつけてくれないか?•••?」

俺は言われるがままに、たくさんの仲間と一緒に男を捕まえる。


『••••••』

数十秒の沈黙が訪れた。その間、仲間たちも含め動きと音が完全に止まっていた。

その後、一時沈黙していたエリックが息を大きく吸ってから、いきなり落ち着いた声質で話し出す。

「おい、お前、この前2度とこの土地を跨ぐなって言ったよなネズミ野郎」

「•••」

「お前が媚び売りで取り込んだ下手な保安局のクソが俺らを逃しても、俺が殺し屋雇ったらお前を逃したりしねぇぞ」

声質からは感じられない静かな怒りを言葉から感じる。

「2度と跨ぐなよ、ここを!、分かったか?、おい離してやれ」

エリックが俺たち男から離れるよう言う。

それと同時に、エリックは俺の後ろ側にいる男たちに向かって、さりげなく、『人差し指を地面に向かって指すような』手の動きをした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る