【KAC20253】元キャバ嬢ですが英国で城の女主人になります!【2000字以内】

音雪香林

第1話 妖精

 私はキャバ嬢だ。

「元」がつくけど。


 高校を卒業したものの定職に就くのが嫌で職を転々としていた。

 キャバ嬢もその一つ。


 だが、それも終わった。

 別にクビになったわけじゃない。

 働く必要がなくなったってだけ。


 私はてっきり天涯孤独だと思い込んでいたけれど、英国に曾祖母がいたらしいのだ。


 そしてその曾祖母が私に遺産を残して亡くなった。

 遺産が日本円にして3000億って聞いてびっくらこいたわ。


 詐欺だったらもっと現実的な金額だろうし、まあ詐欺だったとしてもどうでもいい。


 養護施設でもハブられてたし、仕事も友達ができる前に転職してたから、私がどうなっても心配する人間なんていないのだ。


 そんなわけで飛行機に乗って英国までやってきた。


 空港にはバスの運転手さんみたいな格好の人が待っていて、リムジンに案内され乗り込んだところシャンパンやらワインやらチョコレートやら用意されていて「すげー」とあっけにとられてしまった。


 曾祖母の家まで車で揺られつつトリュフやらボンボンやら多種多様のチョコレートとワインなどを楽しんだ。


 で、到着したわけだが。


「家っつーか城じゃん?」


 どこまで私の度肝を抜いてくるんだ。


 城の玄関(って言っていいのか?)にはいかにも執事ですって感じの白髪をオールバックになでつけた老紳士が立っていて「お荷物をお預かりします」とスマートに私のキャリーバッグをさらっていった。


 呆然としていたら老紳士の陰からひょっこり中学生くらいだろう少女が顔をのぞかせた。


 さらりと流れるまっすぐなプラチナブロンドに、ちょっと生意気そうな眦がちょっとつり上がっている青い瞳。


 卵型のツルっとした白い肌に咲き初めの薔薇のようなピンク色の唇が可憐だ。

 ものすごい美少女である。


「ふーん、あんたがあの子のひ孫。全然似てないわね!」


 あの子って曾祖母のこと?

 年上の女性をあの子よばわりって、どういう娘なんだろう。

 考え込んでいると、少女が。


「あたしはシルキー。この家の掃除婦よ。よろしくしてあげるかどうかはあんたしだいね」


 生意気そうではなく正しく生意気だった。

 美少女改めシルキーは、それだけ言ってサラサラと衣擦れの音を響かせながら去っていく。

 入れ替わりに老執事がやって来た。


「お荷物は代々女主人の私室とされてきたお部屋に運び込ませていただきました。先ほどすれ違いましたが、シルキーとはもう顔を合わせられましたか?」


「ええ。彼女は掃除婦だと言っていたけれど、メイドにしては若すぎない? まだ就学していなきゃいけないでしょう。養護施設で育った私ですら高校までは行かせてもらえたわよ?」


 それに、あのサラサラとして白い服。

 掃除婦が絹の衣なんて着る?


 なんかアンバランスっていうか、違和感がある。

 老執事が。


「彼女のことは怒らせないようにお気を付けください」


 と言ってきたことで、私はやっぱり何か事情があるのかと待ち構えたが。


「彼女の『シルキー』というのは個人名ではなく種族名です」


 種族?

 あ、民族かな?


 私も英語はネイティブじゃないし。

 でも民族名で呼ぶとか、同族同士では暮らしてないのかな?


 産まれたらすぐ里子に出されてとか?

 などなど考えていたら、老執事が続ける。


「彼女は人間ではなく妖精で、主に家に憑きます。人間を主人としているのではなくあくまで家が目的なので、気に入らないと思われてしまったら追い出されてしまいます」


 お気を付けください、と結ばれた台詞に私が返したのが。


「は?」


 妖精?


 常識的に考えたら事実ではなく、単にからかわれているのだろう、と判断するだろうが……私は真実だと肌で感じた。


 老執事が冗談の口ぶりではなかったのと、シルキー自体の人間離れした美しさ、その二つからの説得力に私は負けた。


「き……嫌われないように気を付けます……」


 とんでもないところに来てしまった。


 詐欺だった方が法的処置を取れるから楽だったかもしれない、などという考えをしても仕方がない。


 なるようになる。

 人間万事塞翁が馬。


 流れに身を任せてこの城の女主人として頑張っていきますか。

 私は両手でパンっと頬を叩いて城の中へと足を踏み入れた。




 おわり


**あとがき**


 こんにちは。

 作者の音雪香林おとゆきかりんと申します。

 ここまで読んで下さった方ありがとうございました。


 今作を気に入っていただけたならこれ以上ない幸いです。

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 4月24日に完結となります。


 事件に恋に盛りだくさん!

 読み応えバッチリの新連載!


 よろしくお願いいたします。

 以上です。


 読んでいただけたら嬉しいです。

 あなたにも私にも幸運が訪れますように。





 おわり

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