第1話【喫茶店のもう一つの珈琲】
★喫茶店にて
第1話
★喫茶店
—―カラン!
—―カラン!
ドアを開けて店に入り、ふり返り閉める。
まりちゃんを見ると目が合った。二人で一緒に入店すると鈴の音は2回だけ、入店2度目にしてはこの身のこなしは上出来き。
私たちがこの喫茶店を選んだのは女性が多いオシャレなお店だったという理由。
ただ私たちが初めてこの喫茶店に入った時は終始焦ってばかりだった。
目立たないようにドアをそっと開け閉めし、静かに店内へ入るとカフェ店員は私たち二人を不審者扱いで睨んだ。それに加えてどこに座るか迷ってしまった。
カウンター前でひと息つくと、ふわりとコーヒーの香りが漂ってきた。湯気が立ち込める店内は、そのせいか少しだけ霞んで見えた。しかし、その香りや湯気は空間全体を染め上げてはいない。ただそれに近づけば一瞬その色に染まるだけで、店内の壁は普通の色で匂いはしない。
「まりちゃん、席どうする?」
「向こうの角にしよう」
まりちゃんは奥の席を指さした。
「うん」
そうしよう。
「あそこなら隠れられるし外も見えるからちょうど良いと思う」
と私に耳打ちしてすたすたと歩いて行った。
私は一体何をするの?と疑問に思ったが、立ち止まっているのも変なのでまりちゃんの後についていった。
この喫茶店の床は木製で光沢があった。ワックスをかけているのか歩いていても床は滑らない。まりちゃんに向かい側の席に座る。
「はい、この前話していた美伊の似顔絵」
座るなり唐突もなく向かい側に座ったまりちゃんがノートを目の前に突き出してきた。
「ええっ!」
私はその絵の奇妙さに思わず声を上げてしまった。
よかった、周囲は誰もこっちを見ていない。カフェだけに会話は寛容なようだ。
そのノートには丸顔に右目は眼帯をつけて左目はくっきりとしていて、小さい鼻と澄ました口の絵が描かれていた、さらにそれはゴスロリ調の服を着ていた。
「ボカロ?まるでリスカしてそうなんだけど…」と私が言うとまりちゃんは表情一つ変えず
「そう、ボカロ風に書いたけど変かな?」と答えた。
「へんー。すごい才能を感じるけど、この絵はどう見てもおとぎ話に出てくる不気味な少女。私は少女漫画のヒロインのように可愛くて綺麗な女の子を描いてほしい」
と身振り手振りで感想と想いを伝えた。
「難しいわね。じゃあ、次にここへ来るときは今の美伊を描こうかな」
とまりちゃんはクスッと微笑み、すぐにノートを鞄にしまって上を見ながら考え込んでしまった。
冗談じゃない。それより今、私どんな顔をしているの?
すぐに窓を見たが窓はピッカピカで外は曇り一つない快晴の天気で日差しが強かった、これでは自分の顔が窓に映らない。
顔を確認することを諦めた私はこの似顔絵の事の始まりを思い出した。
先週の絵画の授業は隣の席の人の顔を描く課題があった。その絵は採点後の翌日に各教室の廊下の壁に張り出された。まりちゃんの絵は隣の席の女子の似顔絵だった。その絵は繊細な筆遣いと巧みな描写が評価され金賞のシールが貼ってあった。
私は隣の席の女子のチャームポイントである笑顔の時の表情と顔にかかる髪の毛の絶妙な釣り合いが良いと思った。それで私はまりちゃんに似顔絵を描いてほしいとお願いした。
まりちゃんを見ると、いつの間にか鞄からノートを取り出していた。そして思い出すように何かをさらさらと描いていた。
もしかしたら私はついさっき不気味ちゃん2号を描くきっかけを作ったのかもしれない。
私は一度深呼吸した。
正直疲れた、見るだけでかなりの体力を消耗した。また次の事を心配するだけで老化傾向の草臥れ黄昏11歳女子になった。しかし楽しい学生生活が目標の私は、ここで負けるわけにはいかないw
そう、この店内だって見れば楽しい!
店内を見回すと赤いレンガ調のカウンターに始まり、各々白く塗られた木製のテーブル、それを支える銀色の凸状の脚が茶色い木目調の床に映えていた。いくつものテーブル席はそれぞれ2m以上離れているので気兼ねしなくてよい。それと対になるように黒い木製の椅子が異様な雰囲気を醸し出す。その席に数人のお客さんが座って話をしている。
天井には換気のためか飛行機のようなプロペラが付いた換気扇があり、ゆっくりと回転している。
店内の角には季節の花や観葉植物、風物詩などが置かれていて季節の四季を飾る。
私たちの席の両角とも窓がありガラス越しに外が見える。他に気づいたことは小物やグラスが見当たらないことだった。
そういえば初めて来たときも外の騒音が聞こえないと思った。もしかしたら防犯ガラスかも?
派手な色彩の店内、その他の物は見ていて飽きない、加えて自然の物が多いので意外とくつろげる場所だった。
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