妖精のせいで主人公がパンツ一丁になった件
宮永レン
妖精のせいで主人公がパンツ一丁になった件
妖精の話をすると、大抵の人は神秘的で幻想的なものを想像すると思う。けれど、私が出会った妖精は、そんなロマンチックなものではなかった。
むしろ、迷惑極まりない存在だった。
* * *
その日、私はいつものようにカクヨムで小説を投稿しようとしていた。タイトルは『妖精の森とぼくの秘密の友だち』で児童向けのファンタジーだ。心温まるストーリーを目指し、キーボードを軽快に叩く。
——その時だった。
「ピィィィィィィ!」
突然、窓の外から甲高い鳥の鳴き声が響いた。
驚いて振り向くと、ベランダの手すりに何やら小さな影。
「……鳥?」
いや、違う。
確かに
体長15センチほどの小さな女の子のように見えた。
「え……っ、本物の妖精さん!?」
「いかにも」
そういって妖精は三式機龍の機体ように美しく輝く銀の翅を持ち、キラキラとした粉を撒き散らしながら部屋に飛び込んでくる。
天井を一回りすると、私のパソコンの上に堂々と腕を組んで鎮座した。
「す、すご……夢じゃないよね?」
みよんと自分の頬を引っ張ってみるけど、普通に痛い。
「おぬし、何をしておる?」
「え、あの……小説を書いて……」
「ほう、小説とな? どれどれ、見せてみよ」
断る間もなく、彼女はひらりと舞い降り、顎に手を当ててディスプレイを眺め始めた。
「ふむふむ……妖精と人間の心温まる友情……?」
「そ、そうだけど……」
「違う! 妖精とはもっと気まぐれで、自由奔放で、いたずら好きなものじゃ!」
パチン!
妖精が指を鳴らした瞬間、画面の文章が一瞬で変わり、私はぎょっとする。
「ええと……『妖精は主人公のズボンにイタズラをして、村中をパンツ一丁で逃げ回らせた』……って、えええ!?」
私のプロットの片隅にもない展開に、思わず背筋がのけぞった。
優しい妖精の女の子が、主人公を幸せに導くはずだったのに——。
「勝手に物語を改変しないでくれる!?」
「リアリティを追求してやったのじゃ。感謝せよ」
妖精は胸を張り、ドヤる。
「そういうのいらないから! 元に戻して!」
「ならば取引じゃ」
妖精(小鬼の間違いか?)はニヤリと笑い、手のひらを差し出した。
「おぬし、ワシを物語の主役にせよ」
「えぇ……」
なんだか、嫌な予感しかしない。
「それができないなら、カクヨムに投稿する前に原稿データを全消去する呪いをかけるが?」
「最低だね!?」
* * *
あまりにも理不尽なので、私は妖精をじっと睨んだ。
銀色の髪に、小さな体。どう見ても子どもにしか見えない。
「ねえ、あなたって何歳なの?」
「……は?」
妖精の表情が一瞬で変わった。
「お、おぬし……それを聞くか……? ワシの、この美しいワシの年齢を……?」
「いや、なんとなく気になって」
「やめよ! そういうデリカシーのない質問はやめよ!」
突然、妖精の周りに風が湧き起こり、銀色の粉が天井まで舞い上がる。
「いまこそ、天より裁きを下さん!」
「なに、なに、なに!?」
「名付けて……トリの降臨!」
すると、天井近くに集まった銀色の光が、羽毛のような形になって膨大な量が降ってきた。
「ネーミングセンスひどい!」
「ワシの年齢を聞いた罰じゃ! おぬしの小説、今日から全年齢対象ではなくなる呪いをかけてやる!」
妖精が私を指差し、高らかに宣言する。
「わー! ごめんなさい、それだけは絶対にやめて! カクヨムでそれやったら消されちゃうぅぅ!」
私は慌ててパソコンの上に覆いかぶさると、降り注ぐ羽が触れないように守った。
* * *
結局、私は彼女を主人公にした――コメディを書くことになった。
タイトルは『妖精とパンツと私』。
やっぱり、この子、センスないよぉ……と半泣きになりながら、言われた通りに文章を書いて、投稿ボタンを押す。
――もう、どうにでもなれ。
投稿すると、応援コメント欄は「妖精に笑った」とか「パンツが飛んでいくシーンで爆笑した」などと意外にも盛り上がりを見せ、星レビューも今まで私が投稿した作品の中で一番だったものをあっという間に抜き去ってしまった。
それはそれで、嬉しいような悲しいような、複雑な気分である。
「ほう、なかなかの出来ではないか。またいいネタが思いついたら書かせてやってもよいぞ!」
妖精は満足げにうなずき、また「ピィィィィ!」と鳴きながら飛び去っていった。
こうして、私は妖精に翻弄されながら、今日もカクヨムに小説を投稿し続けている。
――ただし、もう「妖精と人間の心温まる友情」は書けそうにない。
妖精のせいで主人公がパンツ一丁になった件 宮永レン @miyanagaren
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