覚醒せしチャクラの矢先【KAC20253 妖精】
にわ冬莉
矢
初めておでこを出した日、私の中のチャクラが開いた──。
第三の目。
確かそんな風に言われてたんじゃなかったかな。
実際、チャクラなんて言葉でしか知らないし、それが開いたらどうなるのかも知らない。ネットでググったら「生きるエネルギーを感じ取れるようになる」みたいなふわっとしたことしか書いてなかったし……。
私の場合、今まで見えなかったものが見えるようになった。
「……なん……じゃ、これ?」
学校までは徒歩だ。いつもと同じ、通学路。鳥かなにかだと思っていたソレと、目が合った。
「よう、橘!」
背後から声を掛けられ、驚いて「うひゃあ!」と変な声が出る。
「え? そんなに驚く?」
同じクラスの男子、伊藤君だ。
「あ、ごめん……ちょっと、うん」
私が伊藤君を振り返ると同時に、「ソレ」も動く。伊藤君の斜め上くらいに。
「あれ? 橘、髪型変えた?」
上にお姉ちゃんが二人いるという伊藤君は、こういうさりげない気遣いができ、一部の女子から人気となっていた。私はおでこに手を当て、
「変かなっ?」
と訊ねる。やば、今絶対顔赤い!
でもそんな私に伊藤君は
「変じゃないよ。少し大人っぽい雰囲気で、橘によく似合ってる」
と、中学生とは思えないスムーズさで褒めてくれる。ちょっとくすぐったい。
すると、伊藤君の斜め上にいた「ソレ」がうんうんと頷き、なにもない空間から弓矢を取り出した。待って、あれってもしかして……?
矢を、放ってくる!
私は「ソレ」から放たれた矢を、避けた。
「え? 橘?」
急におかしな動きをした私を見て、伊藤君。
「あ、ごめん、なんでもない……よっと!」
二本目も、うまく避ける。「ソレ」が小さく舌打ちをした……ような気がした。
冗談じゃない! 髪型褒められたくらいで簡単に落ちてたまるもんですか! 私がおでこを出して大人っぽさアピールしたいのは、伊藤君じゃないんだからねっ!
心の中で「ソレ」に言い返すと、弓を構えていた「ソレ」がハッと目を見開き、首を傾げた。どうやらわかってくれたみたい。
そうよ、矢を放つなら桐生先輩相手じゃないと!
そう心の中で叫んだ私の心臓目掛けて、矢が放たれる。
「新しい髪型、一番に見られて嬉しいよ」
トス、と矢が刺さった。
私の負けだ。
覚醒せしチャクラの矢先【KAC20253 妖精】 にわ冬莉 @niwa-touri
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