第16話 自白

 放課後、相変わらず仁はパソコンに向き合う。


 今度はすぐに話しかけられそうだと瑠美菜は思うものの、内容が内容ゆえに話しづらい。


 わざわざ今日言う必要はないのではないかと自分に言い訳をする。

 瑠美菜はため息を吐く。


 昨晩、聖城が瑠美菜に近づき、契約を交わした。


 その事実を仁に伝えるべきか悩んでいた。


 本来、契約に関わることだから言わなければならないのだが、どうしてか瑠美菜の体は硬直し、席でただ固まることしかできなかった。


 しかし、そういうときに限って、仁はパソコンを閉じ、瑠美菜の元にやってきた。


「今、ちょっといいか」


 仁が眼鏡をくいと上げ、瑠美菜に話しかける。


「う、うん。どうしたの?」


 昨日のことがもうばれているのかもしれないと瑠美菜は仁に視線を合わせず応える。


「その、なんだ……」


 仁にしては珍しく、ハッキリしない。


 どうしたのだろうか。


 瑠美菜は気になって、仁を見やる。

 すると、仁は視線を逸らした。


「くるみちゃ……胡桃の連絡先を知ってるか」

「え、うん。知ってるけど……」


 けど、どうしたのだろうと瑠美菜は首をかしげる。


「その……胡桃も俺が支援することになってな、その打ち合わせをしたくてな」

「え」


 瑠美菜は驚きを隠せずにいた。

 自分だけでなく、他の人を支援することは仁の仕事上あると思っていた。

 でもそれが、瑠美菜よりもアイドルとして相応しい胡桃だと話は違った。


 自分は、仁に見放されてしまったのか。

 まさか、本当に仁は瑠美菜の支援を聖城に譲るものなのか。


 瑠美菜は、自分の実力ではアイドルになれないと言われているような気がした。


「無理ならいいんだ。個人情報だしな」

「……ううん、いいと思うよ」


 瑠美菜はスマホを取り出し、仁に胡桃の連絡先を教える。


「すまない、助かった」


 仁はどこか嬉しげだった。

 瑠美菜は肩を落とした。

 もう、仁との契約は終わりなのだと悟った。


「ねえ、桐生くん」

「なんだ」


 不愛想に仁が応答する。


「もう聞いてるかもしれないけど、私、他の人に支援してもらうことになったから」

「なんだと」

「聖城さんって人に支援してもらうことになったから」


 瑠美菜は淡々と事実を伝える。


「聖城……だと?」

「うん、それじゃ」


 瑠美菜はそう告げ、席を立ちあがり足早に教室を後にする。


「おい! ちょっ――」


 仁が呼び止める前に瑠美菜は教室を出てしまう。

 仁は舌打ちをする。

 これは、一旦相談した方がよさそうだな。

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