第4話 一緒にお昼ごはんイベントは波乱添え

ニセ告があった次の日の昼休み。

何故かボクは今日も学食で一人、ぼっち飯をキメている。


「これからどうしよう」


ニセ告とはいえ一応、涼風さんとカップルになった。

方針なんかとっくに決まってる。

一週間の短い間に一生味わえない青春を全力で謳歌したい。

そのためにはまず距離を縮める必要がある。

………と、一晩中悩み脳裏に浮かんだのはデートの二文字。


「どうやって誘ったらいいんだろっ」


昨日の自分が憎くい。

理由はひとつ。昨日のニセ告に気を取られ、連絡先を聞かなかったからだ。

別に聞きなくなかったとか尻込みしたとかではない。

昨日の告白は偽物とは思えない情熱的な物で、周りからもメッチャ見られてた。

その反響で頭真っ白になってて余裕失くしたわけだ、本当情けない。


「はぁ~」

「何しょげた顔してんの?」

「………ふぇ?」

「よっす~アナタの彼女の登場だぜぃ」


方針は決まっても連絡先聞いてないし、どうやって誘うかなぁ。

学食の机に突っ伏して後ろ向きな思考が回り始めようとしたその時、昨日のはつらつな声が聞こえてきた。


そちらに振り向くと昨日告って来た相手——————涼風さんが昼ご飯片手に明るく挨拶してきた。

ボクの彼女って言ってて恥ずかしくないんだ………。

陽キャの胆力すげぇ。


「隣座りたいけどいい?」

「あ、どうぞ」


彼女だから隣なんていつでも空いてるから。

なんて、気の利いたことナチュラルに言えたら昨日のうちに連絡先交換できてたか。


「ひょえ~本当に男の子だ、いっぱい食べるね」

「ま、まあいっぱい食べるの好きだから」

「いいな~あたしってなんかいっぱい食べれないんだよね」


ボクのお昼ご飯—————から揚げうどん(大盛り)に感心した声を上げる。

男の子で合ってる?ってニュアンスの発言があった気がするけどまあいいでしょ。

「いっただきま~す」のボイスが隣越しに響く。


「………」

「………」


や、ヤバい。

何故か空気か思い気がする。

内心、憧れていた恋人との昼ご飯イベントだ。

体験出来てメッチャ嬉しいけど、お互い沈黙のまま食べてて空気が重い。


ただ食事してるだけなのに何か話さなきゃいけない重圧感に苛まれてる。

い、一応は偽物でも恋人って関係だし………だんまりは変、だよね。

何か話題………話題ないかな。


「そういえばさ」


なんとかこの沈黙を打ち破れるものはないか内心焦っていると涼風さんが先に口を開く。


「は、ハイ」

「固い固い、敬語抜きでいいから」

「はい………あ、うん」


「急に告っちゃって学部も教えてなかったね」

「ま、まあ………」

「アナタへの想いが溢れちゃった! なんちゃって」


こちらに向き直りごめ~んって手を合わせながらあの時聞いた小悪魔めいたニンマリ声で笑う涼風さん。

キャラメイクじゃなくて地だったんだこれ。

ってこれ、なんて返せばいいの?

さすがにニセ告に触れるのはタブーだよね。

とするとボクも好き………はちょっとキモいか。


「実は同じ学部なんだよね、あたしたち」

「え?」

「で、ここからが本題だけど………連絡先教えて?」


返答に悩んでいるとさらっととんでもない爆弾が投下されてさらに追い打ちまでかけられた。

さすがに頭が真っ白一色に染め上げられる。

いま………涼風さんはなんて言った?


「昨日、家帰ってそっこー電話しようとしたけどさ、番号ないって気づいちゃって~ウケるでしょ」

「う、ううん。連絡先聞くチャンスなんか山ほどあったのに聞かなかったのボクも同じだから」


「返答まだ固すぎw」って楽しそうに笑ってるけどこっちにそれどころじゃない。

またしれっと爆弾混じってなかった?


付き合いしてその日、すぐ電話とかしちゃうものなの?

ボクが散々悩んだ連絡先交換の先のこと考えてたんだ。

しかも羞恥心一切なしに相手にさらっと伝えられるなんて。

恐るべし、陽キャ女子のコミュ力。


「じゃあおあいこだね♪」


涼風さんのコミュ力に勝手に救われてると小悪魔な笑顔がぱあっと綻んでいく。

か、可愛い。


「そういうわけで~」

「うん?」

「スマホ、出して?」

「へ? あ、あ~」


スマホ? 急になんで?

あ、あ~。

ロイン交換するからスマホ出してって意味だよね。

おそるおそるポケットからスマホを取り出す。


「えいっ」

「ちょっ!?」

「伊織のスマホ確保~」


シュパッと瞬く間に手からスマホが涼風さんの手に渡った。

はやっ。


「連絡先交換じゃないの? どうしてボクのスマホ………」

「まぁまぁ見てなさんなって♪」


右手を前面に差し出して待ったかけると涼風さんがボクのスマホを操り、どこかに電話かけてすぐ切った。

そして今度は両手でポチポチ触り、しばらくしてスマホが返される。


「何したの?」

「伊織のであたしのスマホに電話かけて~後は名前登録とロイン飛ばしたくらいかな?」

「へ?」


そのためわざわざ電話かける必要なくない?

QR出してロインの交換すれば済むのに、どうしてそんな回りくどいことしたのかな。

ま、まあ予想外の収穫(涼風さんの電話番号)があるから嬉しいけども。


「う~ん、あたしたちって恋人でしょ?」

「そう、だね。うん」

「番号あった方が何かとお互い楽できるワケじゃん」


ま、まあ一理ある話かな、これは。

ロインで連絡取れない場合、メッセやら直接電話かけられるし。

あくまで一般カップル目線からの話だけれど、わからなくもない。


「ならいちいちロインの交換と番号登録するより伊織の番号であたしに電話かけた方がお得じゃん?」

「あ、え?」

「だから連動機能使ったワケ。電話かけた相手のロインが勝手に登録されるから手間も省けるし、後はあたしが登録しやすいようひとつ飛ばしただけだよ」


「ほれ」と涼風さんがさらっと自分のスマホ画面をタップしながら見せてくれる。

ロイン画面にはついさっきボクのスマホで送ったらしきメッセが浮いている。


「おーい、聖ちゃん~!」

「あちゃ~ごめんね? 友達に呼ばれたから」


「また連絡するね」って言い残した涼風さんがトレイを持ち、小走りで友達のところに行ってしまった。


「すごい」


ぼんやりとスマホの画面を見つめる

履歴にはいつ保存したのか『聖嫁♡』って名前が追加されていた。


「もう一度だけ頑張ってみようかな」


今日だって会う予定なんかなかった。

しかし偶然でも彼女がボクを見つけて、アクション起こしてくれたから一緒に昼ご飯ってイベントが堪能できた。


「ハートつけるところまで偽物とか末恐ろしいな」


デートはボクから誘ってみよう。

そう新たな決意を胸に、残りのうどんに手をつけるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ニセ告から始まるヤンデレ育成 みねし @shimine0603

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ