おじさんは妖精じゃありません

金谷さとる

妖精じゃなく魔王っす

「おじさん、妖精!?」

 森の中で見知らぬ少女に袖を掴まれた。

 キラキラしい異界渡りの気配を濃厚にまとわり付かせた幼い少女。家の手伝い等がようやく様になってくる年齢のように見える。

「おじさんが妖精に見えるか?」

 聞き返してやろう。

 外見でわかりやすい妖精もいれば、外見では見分けがつかないものもいる。

 妖精は現象が魔力と意志を持った精霊でも魔族でも魔法生物でもない存在の総称とされがちだ。少女の理解の妖精とはまた違う可能性もある。

 というか、おじさんは魔王だし、本業は遺跡専門探索家である。妖精ではない。

「案内の妖精に会えるって白い場所で……」

 あー。

 神の駒かよ。災難だな。

「お嬢ちゃんみたいな存在を俺たちは『迷い客』って呼ぶ。今までそこに居なかったのに忽然と現れる不審者だな。意味わかるか?」

 言葉が通じていても言葉が通じているとは限らないので一応の確認だ。

 こくりと肯定のつもりだろう頷く少女。地区によってはそれも伝わらないヤツだ。

「迷い客、迷い人微妙な呼び方の差異はあれど同じだな。その中でも呼ばれた者はまた少し違う」

 とりあえずはヒトとの会話は可能のようだし、神の駒なら特化能力や防衛能力が付与されている可能性もある。極端な成長や出会い運と魅了とか要注意なヤツだ。

「ちがう?」

「なにも知らないのをいいことに利用されやすいってコトだ」

 利用される能力を持つ可能性が高いからな。

 神の駒なら『信仰』を餌にできるとわかりやすいし。

「だからさ。お嬢ちゃんはなにをして、どう進みたいの?」

 おじさん、それがわかんないと相談にものれないんだな。

「なんで、そんなこと聞いてくれるの?」

「ん? 縁?」

 あと慣れ。

「で、やることやってからなら、俺も見捨てる時良心の呵責とか考えなくていいしな」

 おじさんの罪悪感軽減のためですよ?

「……魔物とか、出る?」

「出るね」

 顔色コロコロ変わって子供っぽくていいよね。

 ちびっ子見捨てるのは抵抗あるんだよ。おじさん的にも。

「妖精、魔物倒せる?」

「無理じゃね。たぶん、倒すのはお嬢ちゃんになる」

 しばらくぷるぷるしながらうつむいて考えているお嬢ちゃん。

 きゅっと俺を見上げた表情は思い詰めつつとりあえずの覚悟がみえた。

「わたしなにができるかわからないけど、助けてください!」

 おもいきり遅刻した案内の妖精より俺への信頼をあつくした迷い客。

 妖精(格堕ち神)のブーイングは当然聴かないし、ある程度助けたら放置する宣言済みである。

 預け先の生ぬるい視線は知らん。


 森に放置して怖い思いさせたあと助けて信頼(最終信仰)を得るつもりだったんだろうな。



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