中編 国外追放されました

「痛った~! もう、あの御者! 絶対あのバカ王子の手先でしょ!」



 国境近くで無理矢理馬車から出され、尻餅をついた私は、逃げるように走り去った馬車を睨みつけた。


 すると、妖精たちが心配そうに近づいてきた。



「ウフフッ、ありがとう」



 ――あなたたちがいれば、何があっても大丈夫よね。


 忙しなく飛び回る妖精たちに微笑みかけると立ち上がって周囲を見回した。



「ようやくあの地獄から抜け出せたのね」



 乳母が亡くなった日から、妹を始めとした家族や使用人達に虐げられ、学園に入ってからはクラスメイト達から蔑まれ、生きるのに必死だった私は、ようやく解放されたことに安堵する。


 すると、妖精たちが急かすように私の背中を押す。



「ウフフッ、それじゃあ、行きましょうか」



 ――女神様の使いなら、きっと悪いようにはならないはず。今までだってそうだったし。


 可愛らしくて頼もしい妖精たちに導かれるまま、誰もいない道を歩いていると鬱蒼とした森に入った。


 その森は、魔物がよく出る危険な森で、冒険者や騎士以外は入ってはいけないと言われている。


 ――けれど、大丈夫。だって、私には妖精がいるから。



「みんな、よろしくね!」



 私の周りを楽しそうに飛んでいる妖精たちに声をかけると、『任せて!』と小さな胸を叩くと森の様子をくまなく見て回り始める。


 すると、遠くから爆音が聞こえた。


 恐らく、見て回った妖精の誰かが魔物を見つけて倒してくれたのだろう。



「さすが、女神の使いね」



 遥か昔、『魔王』と呼ばれる厄災がこの世界に災いと混沌を齎そうとしていた。

 それを食い止めるため、この世界を作った女神様が、使いである妖精を通して人間に魔力と知識を授けた。


 それが、その知識というのが『魔法』を使うために知識である。


 その後、女神様から魔力と知識を授かった人間達は、その力を駆使して魔王と倒した。


 創造した世界が救われて安堵した女神様は、世界を救った人間達に褒美として授けた魔力を子々孫々継承することを許した。


 これが、祖国で広まっているおとぎ話である。


 けれど、これには続きがあった。


 女神様は人間達に褒美を授ける際、2つ条件を付けた。


 1つ、監視役として自身の使いである妖精たちを付けること。


 もう1つは、妖精の声が聞ける人間を大切にすること。


 魔王を倒すために授けた魔力は、人間の身にはあまる強大な力を持っており、女神様はそれが悪用されることを危惧していた。


 だから女神様は、監視役として妖精たちをつけた。


 そして、魔法を使って悪さをしたり、妖精たちに危害を加えたりした場合、人間達から魔力を奪うことにしたのだ。


 だが、女神様の使いである妖精たちは自由気ままで、純粋無垢な人間にしか話しかけないため、女神様は人間達に妖精たちの声を聞ける人間は『妖精の代理人』として大切にするように言明した。



「妖精たち曰く、『妖精の代理人』のことを知らないのは我が国だけなのよね」



 ――どうして、我が国だけこの話が広まっていないのか分からないけど……まぁ、国外追放された私には関係ないわね。


 ちなみに、『妖精の代理人』に選ばれた人間は、きまって魔力を持っていない。


 それは、悪戯好きな妖精たちが気に入った人間から魔力を全て奪ってしまうから。


 つまり、私は生まれた瞬間に妖精たちに気に入られ、妖精たちに魔力を全て奪われてしまったということになる。



「あの国にも『妖精の代理人』のことが広まっていれば……いや、あのバカ王子のことだわ。きっと、いちゃもんつけて婚約破棄したに違いない」



 ――だってあのバカ王子、顔合わせの時に私に対して『気味が悪い! 私に近づくな!』って言って拒絶して、なぜかすぐ傍にいたアリアナに一目惚れしたのだから。



「私だって、好きで白髪で赤い瞳のキツイ顔になったわけじゃないのよ」



 元婚約者の蔑んだ顔を思い出して顔を歪ませていると、何かを見つけた妖精たちが私の方に集まってきた。



「え、何か見つけたの?」



 興奮気味に私に話しかける妖精たちに、胸を躍らせた私は誰も見ていないことを良いことに駆けだす。


 すると、鬱蒼とした森の中におとぎ話に出てくる可愛らしいログハウスが現れた。

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