【KAC2025】お仕事の妖精【KAC20253】

御影イズミ

妖精さんの正体

「兄貴。『お仕事の妖精さん』という話を聞いたことがあるだろうか」

「お仕事の妖精さん? 聞いたことないねぇ」


 スヴェンから切り出された話に、彼の兄アステリは興味を示す。

 というのも、ここ最近セクレト機関内部では『お仕事の妖精さん』が頻発しているのだそうだ。


 期日ギリギリの書類が書き進められて提出されていたり。

 長らく完成していないバグだらけのプログラムがいつの間にか完成していたり。

 報告書のミス部分がすべて訂正されていたり。

 そのどれもが『仕事で必要なもの』で、『期限ギリギリ』なもの。報告者いわくいつの間にか完成していたらしいが、真相は定かではない。終わったから良いや、で済まされているのだから。


 一体誰が、何の目的で『お仕事の妖精さん』をやっているのか皆目見当がつかない……というのがスヴェンとアステリが所属する司令官システムの見解。むしろ提出してくれてるならそれでいいじゃないか、と咎める様子はない。

 だが、スヴェンはこの件は終わらせてはならないからと調査を開始。既に『お仕事の妖精さん』が誰で何の目的を持って行動しているのかを掴んでいるようで、彼は一気にアステリに向けて切り込んだ。


「兄貴だろ。『お仕事の妖精さん』の中身は」

「なんで? 私には得にならn」

「提出されたモノすべて兄貴の管轄だからだ」

「うぐぅッ」


 これまで『お仕事の妖精さん』が手掛けた期日ギリギリの書類も、長らく完成していないプログラムも、ミスの多い報告書も、すべてがアステリがチェックしてシステムに通すことになっている。

 本来は不備があれば返すようにしなければならないが、いっそのこと『私が完成させれば簡単に通せるのでは?』と斜め上の答えを見つけてしまったのだ。


「あのなあ、兄貴。為にならないからそういうのはやめろって」

「だって~~」

「だってじゃない。流石のオレでもそれはまずいとわかるぐらいだぞ」


 大きなため息をついて、アステリに止めるように促すスヴェン。

 このまま『お仕事の妖精さん』が続けば、絶対に調査人エージェント達の為にはならないし、何より司令官システムを担うアステリが動くことで逆にシステムの稼働に影響を及ぼしてしまう。故にどうにかして止める必要があった。


 しかし残念ながらセクレト機関内では『お仕事の妖精さん』の話は広がっており、急に止めるわけには行かないだろうというのがアステリの返答だった。

 今まで順調に行っていたものを急に止めることで調査人エージェント達のモチベーション低下に繋がり、ひいては仕事に対する意識が低下するのでは? と。


「世界を救う組織に所属しながら仕事に対する意識低下は処刑すべきでは?」

「そうきたか」


 ストレートな意見がスヴェンから出てきたところで2人は別の司令官システムのメンバーから声をかけられ、この話は終わりとなった。



 なお、現在も『お仕事の妖精さん』は続いているとかなんとか……。

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