トリたちの群れ。

寝癖のたー

あこがれ

 僕はトリにあこがれていた……ような気がする。

 なんでだったかは、覚えていない。

 気が付いた時から僕の頭はトリで支配されていた。

 鳥を見つけるごとに「僕はトリにならなければいけない」という使命感にかられた。


 羽があるからとか空を飛びたいとか、そういうわけでもない。

 いや……そうなのか……?


 わからない……頭の中がぐちゃぐちゃだ。


 「何がいいっていうんだよ…クソ……。」

 やけくそにひとり呟いた。

 しかし、直後、俺の予想だにしない事態が起こったのだ。

 途轍もない快楽が脳を貫いたのだ。

「!!」

 

 「何が……」

 再び、幸福感と刺激に満ち溢れた衝撃が体を昇る。


「!!!」


……」

 

「!!!!」


「やっぱりそうだ……」


 俺は確信した。このという思考、言葉に強く反応している。

 それと同時に、その瞬間だけトリへのあこがれの束縛から解放されているのを感じた。



 いつからだったかは覚えていないが、思い返せば長い間、トリに執着していたように思う。

 これは解放だ。やっと、解脱げだつの時が訪れたんだ!!


 しかし、次第に快楽が引いていくと、また徐々にトリへのあこがれが強まっていく。



「……トリになりたいヨ゛ォ゛……」

 ダメだ、急いでまたさっきの呪文を唱えないと……。

 あの幸福を……。


……ふく……」

「あ……」

 少し、間があった。

 この世界からすべてが消え去って、360度地平が見渡せる世界に来たかのような静けさがあった。

 

 そして、は体の内側から、どっ…と押し寄せてきた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 しかし一瞬だった。

 感覚的に、あと一歩……

 あと少しで、呪文が完成する……。


 とりの……。


 しかし、思考は徐々にトリに支配されてゆく。


「トリになりたい……トリになりたい……」


 以前はこんな症状はなかった。

 口から漏れ出てしまうほど、憎悪にも似たような、底知れない憧憬が自分の底に芽生えていることに気が付き、戦慄した。


 「ふく……」

 以前と同じ呪文を唱える……。


 しかし、なぜか効果は弱い……。


 呪文の効果が、トリへのあこがれに相殺されつつあるのだ。


「クソ……トリ……トリ……」


「フーーー……」

 残り時間はもう長くない、そう感じた。


頭痛をこらえ、精一杯頭を冷静につくろった。


 先ほど感じた幸福を、そのまま言葉に……ウッ……トリ……


 思考まで……トリにトリ……してきたトリ……。


 トリになりたい……。


 あ……ダメだトリ……言わなければ……この感覚に賭ける……。



 スッ……と驚くほど静かになった。


 快楽はなかった。しかし、トリへの束縛もなかった。



 バサバサバサと、大勢の鳥が羽ばたく音がした。


 おもむろに窓を見やると、そこには大勢のが羽ばたいていた。


 フクロウたちは、人間の住む家から、次々に飛び出してくる。

 

 茶色いフクロウのような、青のアクセサリーのようなファスナーのようなものをつけた

 僕がかつてなりたかったもの。


 彼らは、あこがれていたトリになれたのか……。

 なってしまったのか。


 そして僕は、羽をはばたかせ、彼らの群れに加わった。

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トリたちの群れ。 寝癖のたー @NegusenoT

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