僕がハッテン女装になるまでに経験したたくさんの出来事
なお
プロローグ
人生の折り返しを迎え、身体のあらゆる機能がゆるやかに衰えを見せ始めている。視力はかすみ、肌は弾力を失い、些細な傷の治りも遅くなった。かつては朝まで平然と遊び歩いていたのに、今では夜更かしすれば翌日まで疲れが残る。それでもなお、ただひとつ、衰えを知らぬものがある。性欲。それはもはや本能の最後の砦のように、ひたすら燃え盛り、身体のどこかに残された若さを無理やりに引きずり出そうとでもするかのように、僕を駆り立て続ける。
その衝動を発散するために、僕は今日もネットの掲示板にアクセスする。暇を見つけては相手を募り、見知らぬ男たちと交わる。多い日には、一日に十人以上と関係を持つことさえある。本当にそんなことが可能なのかと、訝しむ人もいるだろう。確かに、ただの男がいくら掲示板で誘ったところで、そんな数の相手が集まるとは思えないし、一日に十人と交わるなど、体力的にも無理がある。だが、それを可能にする術が僕にはある。
女装。
僕は普段は男として生活しているが、プライベートでは一歩部屋を出れば、女性の衣服を纏い、別の存在となる。そして、ネットで募った名も知らぬ男たちに、怒張した肉塊で肛門を貫かれながら、「気持ちいいいい、おちんちんだいしゅき」と白目を剥き、性欲に身を任せ、決して孕むことのない僕の体内にオスの遺伝子を受け入れる。それが僕の現実であり、日常だ。
行為に及ぶ場所は様々だ。深夜の公園の薄暗がり、公衆トイレの個室、成人映画館、ビデオボックスの狭い空間。それぞれに独特の匂いと雰囲気があり、そこに集う者たちは皆、日常の仮面を脱ぎ捨て、本能のままに交わる。そこで僕は、誰かの欲望を受け入れながら、同時に自分自身の存在を確かめる。人知れず、声を抑え、時には誰かの唇を塞ぎ、ひたすらに淫蕩の中に沈む。互いに名前も知らず、会話も交わさないまま、ただひたすらに熱を帯びた肉の塊がぶつかり合う。それが僕の日常だった。
男として生まれながら、男に蹂躙されることの喜び。それは、征服されることでしか得られない甘美な快楽だった。強い腕に組み敷かれ、抗う余地もなく貫かれる瞬間、僕は初めて本能の檻から解き放たれる。生まれ持った性別とは別の、もうひとつの自分がそこに顕現する。その瞬間、僕はただの男でも女でもなく、快楽の器として、純粋な存在になる。名もなく、役割もなく、ただ貪られる悦びに溺れるのだ。
処理をする道具としての自分になりきるため、なるべく相手の顔も見ないようにする。当然、出会う前の写真の交換などもしない。相手を募るにあたって容姿や年齢、ペニスのサイズなどは気にしない。僕の体内に遺伝子を注ぎ込める、その一つだけが条件だ。
多様性が尊重される時代になったとはいえ、これを胸を張ってリアルの知人に語ることは難しい。いや、到底できはしない。理解を得られるとは思えないし、理解してほしいとも思わない。これは、僕が僕であるために必要な行為であり、それ以上でも以下でもない。
僕の性自認は男。恋愛対象は女。性対象は両性。そして、同性との性行為は専らウケであり、女装の趣味がある。これが、現在の僕のあり方だ。では、この歪とも言える性癖は、どのようにして構築されたのか。なぜ、僕はこうなったのか。過去を遡り、その契機をひとつずつ辿ることで、自分自身の核心に触れてみようと思う。
これは、僕が僕になるまでの物語だ。
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