(10)3.2 忍び寄る魔人

「隙あり!」

「っ!」


 ガンッと、アレクシスが強く打ち込んできた。その攻撃も受け止めたエデルは、何かに躓いた。すぐに足下を確認する。


(今、紫色の何かがいたような……)


「おらおら! お前の実力を見せてみろよ!」


 状況を把握したくてもアレクシスの攻撃が執拗だったため、エデルは軽く腕を上げて装飾剣を弾く。そんなエデルの余裕の動きに焦ったアレクシスは、弾かれた装飾剣を持ってこいと兵士に指示を出す。

 再び装飾剣を手にしたアレクシスは、またエデルに打ち込んでくる。


(……気のせい、か?)


 何かの気配を感じるのに、その姿が見えない。さっさとアレクシスとの戦いを終えてその気配に対処しようとすると。


「あぁっ……」


 突然足下から愉悦混じりの声が聞こえた。下を確認するよりも先に剣を捨て、アレクシスを抱えてその場から距離を置く。


「おい! 勝負の途中だろう!!」


 腕の中で暴れるアレクシスを降ろし、先程までいた場所を確認する。しかし、何もいない。

 敵を見つけられない切迫した状況だ。普段通りの言葉遣いになる。


「殿下。瘴気で眠るというのは、どういう状態だ?」

「む。何だお前、偉そうな言い方だな。まあいい。おれは寛大だからな、非力なお前がどんな口調でも許してやろうじゃないか」

「それはどうも。それで、どういう状態か教えてほしい」

「えー、どうしようかなー」


 もったいぶった様子を見せるアレクシスにイラッとしつつ、足下にまた気配を感じてまた抱き上げて離れる。

「お前、何度も抱き上げるんじゃねーよ」と文句を言うアレクシスを背に庇いながら、今いた箇所を睨む。何も変化がない。


 エデルの様子がおかしかったので気になったのだろう。兵士長がやってきた。


「エル殿。いかがされた」

「何か、得体の知れない気配を感じた。魔物かもしれない。警戒されよ」

「何!? 全員、殿下を中心に周囲を探れ!」


 兵士長の号令で兵士達が動く。しかしアレクシスは、エデルとの戦いが中断されてむくれている。

 エデルも周囲を窺っていたが、背後に庇ったアレクシスが、急にガクッと倒れそうになった。とっさに支えるが、装飾剣がアレクシスの手から落ちる。


「殿下? 何があった」

「いや……急に眠気が来た」

「敵が近くにいる。今は起きていてほしい」

「んなこと言ってもな……おれは、魔物の息を吸ったり魔物に触られたりすると眠くなるんだ、から、しょうがないだろ」

「というとは、やはり魔物がいるということか」

「おれが眠らないなら、もういねーよ。それより、続きやるぞ」


 エデルが強いかどうかの判断をするために、装飾剣をまた構えた。魔物がいるかもしれない緊急事態に、アレクシスの行動は困る。


「ほあっ……」


 エデルが気絶させようと思うよりも早く、アレクシスの体が倒れ込んできた。さっと手を出して抱える。


 そして足下から――影の中から、にょきっと人が生えてきた。

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