人気漫画のフーリガン
ちびまるフォイ
面白くない漫画
「先生! 先生!!」
「なんだ騒がしい。締切は守っているだろう?」
「そのことじゃないんです! 先週号のVampの影響が!」
「出たか。いやぁ我ながらして良い展開だったと思う。
これは私の作品でも神エピソードのひとつになるだろう。
ベストバウト間違いなしだ」
「その負けたキャラのファンが、今暴力事件起こしてるんです!!」
「なんだって!?」
ニュースを確かめる。
漫画ファンのキャラが敗北したことによるフーリガン行為が特集されていた。
「え……これ、私のせい?」
「さすがにそれは……ちがうかと……」
「バトル漫画だから勝敗はつけなきゃだけど
漫画の勝敗により現実に暴力が発生するのやばすぎない?」
「しかし……とはいえ、先生の作品はすでに本誌のキラータイトルですし……」
「ちょっと休載したほうがよくないか?」
「な、何言ってるんですか! できるわけ無いでしょう!?」
編集者はすぐに否定した。
「先生の作品はトーナメント編に入ってから人気は急上昇。
すでに週刊誌の発行が追いつかないほどで、
今やこの国の社会現象になっているんです!」
「それは……そうかもだが……」
「ここで休載なんかしたらブームは終焉ですよ!」
「君は会社の人間として漫画を売りたいだけだろう。
私は社会の暴力について話をしているんだ」
「人気漫画に犠牲はつきものです」
「それが現実世界で起きてることが問題なんだ!」
「それじゃ、次号からは注釈を入れましょう。
この話はフィクションです。負けたからといって暴力やめましょうとか」
「うーーん……そうだなぁ」
次の掲載号ぶんの漫画を書き終えると、
その一番最初のページには暴力やめようの注釈が書き加えられた。
1週間後、漫画が掲載される。
負けた側のキャラに肩入れしていたファンたちは、
やっぱり怒り狂ってフーリガン行為に及んだ。
「全然ダメじゃないか!! 効果出てないぞ!!」
「怒りに支配された人間はサルにも劣るということですね……」
「大規模な社会実験をしてるわけじゃないんだ!
やっぱり休載を……」
「バカ言わないでください! ますます人気絶頂なんです!
ここで休載するほうがかえって危険です!
下手すれば会社や先生の自宅に乗り込んでくるかも!!」
「しかし漫画を進めて勝敗を決めればまた現実で犯罪が……」
「先生、こういうのはどうでしょう。
負けた側も負けてないことにするんです」
「なんだって……?」
「全力出してないとか、その日お腹痛くて
ベストコンディションじゃなかったとか。
本気出せば負けてなかったけど感を出すんです」
「小学生の徒競走前の言い訳かなにかか?」
「駄目ですか?」
「キャラを損ね過ぎだろう……」
作者はふとひらめいた。
「ただ、方向性は悪くないかもしれない。
負けた側も負けてないように外伝やスピンオフでフォローしよう。
別の世界線では全然勝っていたとすればいいかもしれない」
「それでいきましょう、先生!
それならファンも怒らないはずです!!」
前代未聞の出版形式が取られた。
正史と呼ばれる週刊誌の本誌にはバトルの勝敗が掲載される。
同時に出版されるスピンオフでは、負けた側の勝利エピソードが掲載された。
「これならどちらも勝利でファンも納得だろう」
作者は安心して、次のエピソードを進めようとしたとき。
編集者が青ざめた顔でやってきた。
「先生! 先生!!」
「またか。今度はなんだ。ちゃんとどちらも立たせるようにしただろう」
「やっぱり暴動は止まりません!!」
「ええ……!?」
せっかくスピンオフを書いたのに効果は限定的だった。
「やっぱり本誌の展開じゃないと満足しないんですね」
「書き損じゃないか!!」
暴力が暴力を呼び、漫画の展開に寄っては死人が出るほど大規模化。
「これじゃまるで暴力を先導しているカルト教団だ……」
「先生はそんなふうに思わないでください。
ただ面白いマンガを書いているだけじゃないですか」
「しかし……私が書いた漫画のせいでこんなことになっている!
もう私は筆を折るしかない。この先はかけない!」
「先生そんなことしないでください!
暴力におよぶごく一部の人間のほかにも
先生の漫画を楽しみにしている読者もいるんですよ!!」
「だが、どうすればいい!? どうすれば漫画を書いても犯罪が起きない!?」
「それは……」
そのとき。
編集の脳内に雷のようなアイデアが落ちてきた。
「先生、フーリガンが暴れないようにする方法がありますよ!!」
「そんな方法……いったいどうするんだ?」
「好きなキャラが負けると大暴れするんです。
それって自分が負けないと思っているからです」
「……なにを当然なことを?」
「そこを利用するんです!!」
「はあ?」
ふたたび本誌には初の試みが実施された。
掲載されるや最初の1ページに大きく表示された。
『読者の投票で結果が決まる!
どっちが勝ってほしいか投票しよう!!』
投票結果はホームページで集計され、
結果に応じた勝敗の展開へと漫画は誘導された。
「どうです先生! これならファンも暴れないでしょう!?」
「まあ……そうだね……うん……」
事前に展開を投票結果で知るようになったファン。
もう予想外の展開で大暴れすることもなくなった。
見事にフーリガン行為は沈静化となった。
先が予想できる漫画の人気もキレイに沈静化した。
人気漫画のフーリガン ちびまるフォイ @firestorage
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