散り椿と、切れたら一番痛いトコ

くるみしょくぱん

1話 鬼の以西

名前は、

以西いせい 美郷みさと


4つ下の弟からは、

ミリちゃんと呼ばれている。


ミリは今年の4月から、

私立東陽明高校へ進学する女子である。


3人姉弟の長女であるミリは、

高校から私立に入るのは、かなりゼータクだと感じている。


しかもミリは、

家が遠方のため寮に入らなくてはならない。


をかましたミリは、

まさに『ゼータクを極めしもの』である。


さて、晴れて『ゼータクを極めしもの』となったミリだが、

べつに家がお金持ちというワケではない。


そんなミリがなぜ、

東陽明に入学できたのか説明しよう。


ちょっと話が変わるようだが、

ミリは5歳から剣道をしている。


はじめはあまり楽しくなかった剣道だったが、

小学校で好きな男子を負かしたことを機に、チョーゼツどハマりした。


あまり人には言えないが、

ミリは相手を叩き伏せることに快感を感じる人なのだ。


ミリの特殊な性格は、

剣道という競技とマッチしていたかもしれない。


剣道にドンドンハマるにつれて、

身長もグングン伸びていった。


身長の高さは剣道の強さと直結した。


中学でのミリは、

これでもかっていうくらい勝ちまくった。


勝ちで得た自信がミリにさらなる練習をうながし、

さらに勝ちを生んでいった。


そして、中学3年のとき、

ミリは全国大会で3位入賞を果たすことになる。


全国入賞をかました場面を、東陽明高校の剣道部顧問が見たことで、

ミリはとしての誘いを受けることになった。


というのは、

まぁ、ミリもあんまりよくわからないのだが、

剣道の選手として東陽明に入学する代わりに、

学費を全額免除してくれる、というすばらしい制度である。


ただ、学費は免除になったとはいえ、入学金や寮に入るためのお金、

教科書代や制服代など、たくさんお金がかかることは変わらない。


ミリは少しでもケンヤクするため、

知人を頼り、剣道で使用する竹刀や、使えそうな武具をゆずってもらった。


そーいうワケで、

ミリは東陽明で入寮でゼータクを極めしものとなったのだ。


ミリは中学校の卒業式の翌日に、

駅のホームに立っていた。


なるべく早く入寮して部活に参加するように、

顧問から言われていたからだ。


「そんなに早く行かなくてもいいんじゃないの?」


「ううん。先生に言われてるから」


「気をつけてね。ご飯ちゃんと食べるのよ」


「わかってるって」


「ミリちゃん。いつ帰ってくる?」


「お盆には帰るから」


家族みんなが泣いている前で、

ミリは旅立っていった。


「・・・」


流れる景色に身を任せていると、

故郷から離れることをあらためて実感させられる。


「さびしいかも」


ミリは胸をわしづかみにすると、

胸に浮かんできた感情をぐしゃっとにぎりつぶした。


フンっと軽い鼻息をつくと、

目元に浮かんできた熱がスイスイと引いていく。


ミリはどんなつらいことがあっても、

こうして感情を抑え込んできた。


いつも冷静沈着で、感情がオモテに出ないミリは、

全国に行った時に『鬼の以西』の異名を得ている。


しかし、自分ではまだ

鬼に足る強さを手に入れてはいないと思っていた。


精神的にも、肉体的にも、

ホントの強さには、まだまだ届いていない。


頑張らなきゃ、と自分に言い聞かせる。


こういうコージョーシンのあるトコロも

ミリの長所である。


「がんばろうっ」


ミリは東陽明でホントの強さを手に入れ、

名実ともにサイキョウの『鬼の以西』になるつもりなのである。

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