第4話 鬼ごっこ(二)

 鬼ごっこが始まってから四半刻後しはんときご(約三十分後)に黄昏ドキ班の者たちが動き出した。


 黄昏ドキ班の華乱からんらん名井田ないたは次々とアサナギ隊の者たちを捕まえていった。一方、我家わけ紺南こんなんと一対一の勝負をしていた。


 鬼ごっこから始まって半刻後はんときご(約一時間後)。残る逃げ手は紺南のみとなった。激戦が繰り広げられている。ここで我家と同じ鬼である三人が参加しても、我家の足を引っ張るだけだ。


 紺南は乱定剣らんじょうけんを使い、我家は鉄扇てっせんを用いて戦っている。お互い、自分の得意な戦法で戦っている。


 紺南は団子の串や箸をまるで棒手裏剣のように投げて使っている。我家はそれらを鉄扇で弾く。


 今度は我家が攻撃を仕掛ける。鳥の子と言う煙玉に火を付けた。鳥の子はすぐに爆破し、周囲を煙で覆った。我家はその隙に手裏剣を何個か投げる。それらは煙の中に吸い込まれた。我家は相手からの攻撃を警戒し、手裏剣を打ったあと、すぐに近くの茂みに隠れた。


 煙が薄くなった頃、二人の姿はどこにもなかった。お互いに隠れたのだ。どっちが先に出るか。二人は考える。


 先に動いたのは我家だった。我家はわざと茂みから出て、相手の出方を伺った。上から手裏剣が降ってくる。我家はそれを軽々と避けた。


 そこにいるのか。相手の居場所を突き止めた我家はすぐにその場所に手裏剣を打つ。勿論、手裏剣を投げたのは近くの木の上、ではなく、その下の茂みだった。


 茂みは大きく音を立てる。紺南が慌てて手裏剣を避けたのだろう。少ししてから、手裏剣を打たれた場所とは別の場所から姿を現した。


 我家は走ってそちらに近づき、鉄扇で殴ろうとする。しかし、鉄扇はただ風を切っただけだった。


 その瞬間、我家の腹に痛みが走った。


「グッ」


思わず声が漏れる。重心が後ろに傾く。倒れないように、と足が後ろに進む。その隙に紺南はこちらへ、近づく。


 そして、紺南は我家が鉄扇を持っている方の手を掴み、それを奥に押す。手につられ、我家の重心が後ろに動き、我家はどんどん後ろに進んでいく。やがて、一つの木に当たる。紺南は持っていたを首のすぐ近くに持っていく。


 身動きができない。我家は必死に思考を巡らす。


 我家は紺南の目をじっと見る。紺南と目が合った。同時に、我家は足を動かし、紺南の腹を思いっきりける。


 紺南は抵抗する時間も与えられぬまま蹴られる。蹴られた紺南はつい、我家の腕を話してしまった。自由になった手を大きく上にあげる。そして、力いっぱいに振り下ろそうとする。


 同時に、我家と紺南の頭に痛みが走る。


「我家も紺南も落ち着け」


男性の声がかかる。それは二人が聞きなれた声であった。


「組頭!?」


家伊けい!?」


二人は同時に驚く。南奪なんだっ家伊けいはため息をつく。


「お前らは鬼ごっこをしていたんじゃないのか?」


「してましたけど…」


我家が答える。


「じゃあ、なんであそこまで本気の勝負をしてるんだ!」


「いやー、盛り上がっちゃって」


二人は声を揃えて言う。全く、部下を持つ者として恥ずかしくないのか。家伊は心の中で呟く。


「まあ、いい。お前らはまず医務室に言ってこい。お前の部下たちは私がまとめておくから」


我家と紺南は顔を見合わせる。気づけばお互いに小さな傷が所々にある。二人は勝負に集中していて気づかなかったのだ。


 二人は家伊に言われた通り、医務室に行くことにした。

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