第3話

 その後、ライアン様は私を連れてにこやかに会場の人たちに挨拶をして回った。


 ライアン様を見て相好を崩した人たちも、私に視線を向けると固い顔になる。


 こんな煌びやかなパーティーだというのに、古びた黒いドレスに前髪で目を隠した状態で現れた令嬢なんて場違いにも程がある。そんな顔をされるのも仕方ない。


 けれど髪を上げれば醜い色の目を晒すことになるのだから、こうしているよりほかなかった。



 一通り挨拶をし終えると、数人の貴族のご令息がライアン様を呼びに来た。ライアン様は彼らに笑みを向ける。


 ご令息たちとしばらく話していたライアン様は、私に向かって「少しそこで待っていろ」と言うと彼らと行ってしまった。


 賑やかな会場で私一人が残される。ライアン様以外に知り合いもいない私は、ただ壁の前でぼんやり会場を見ているだけだった。



 しばらくそこで待っていたけれど、ライアン様はなかなか戻ってこなかった。


(……少し外に出てはいけないかしら)


 賑やかな会場で一人壁の前に立っているのはさすがにつらくなってきた。ライアン様はまだ戻ってくる気配がない。


 少しくらいなら会場の外に出ても構わないのではないか。


 私はそんなことを考えて、そっと会場の外に出た。



 一歩会場の外に出ると、さきほどまでの喧騒が嘘のように静かだった。ひんやりとした廊下を進む。廊下には誰もいなかった。


「このまま帰ってしまいたいわ」


 気が抜けて思わず声に出して呟いてしまった。


 ライアン様だって邪魔な私が一緒にいるより一人で参加した方が自由でいいだろう。彼と踊りたいご令嬢なんて山ほどいるのだから。


 いっそのこと妹のチェルシーが彼と一緒に参加してくれたらよかったのに。


 そんな風に考えても仕方のないことばかり考えながら歩いた。


 すると、前方の柱の影に誰かがうずくまっているのが見えた。


 明らかに普通の様子ではない。急いでそちらへ近づくと、燕尾服を着た身なりのいい黒髪の青年だった。青年はうずくまったまま苦しそうに呻いている。

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