きみは幸せでしたか?
崔 梨遙(再)
1話完結:1000字
私は蒲生三太郎、60歳。大企業の常務まで上りつめ、今、個室の病室で死を待っている。私の病気は、もう治らない。もうすぐ死ぬのだ。
ベッドの側では、10歳以上年下の妻の沙織が林檎の皮を剥いている。私は、妻に1つだけ聞きたいことがあった。ずっと聞きたくて、怖くて聞けなかったこと。そうだ、今なら聞いてもいいだろう。
「沙織……」
「何? あなた」
「きみは幸せでしたか?」
「うーん、あんまり幸せじゃなかった」
「え?」
「だって、かなり歳の差があるし。いきなりオッサンを押しつけられてもねぇ。今ではオッサンを通り越して爺だし」
「それを承知の上で結婚したんだろう?」
「だって、親が決めた結婚だったもの。断れない雰囲気だったし」
「そりゃぁ、お見合い結婚だから最初はそうだったかもしれないが」
「最初だけじゃないわよ、ずっと私はあなたを愛したことが無かったから」
「私は、お見合い結婚だったが沙織を愛していたぞ。今も愛してる」
「そう、それ。その溺愛っぷりがキモかった。“やめて!”って感じ」
「沙織には、私の愛情は重荷だったのか?」
「重い重い、うわべだけの夫婦で良かったのよ。愛情なんかいらなかったわ。淡々と夫婦生活を過ごせていたら良かったのに」
「そんなの、夫婦生活が楽しくなくなるじゃないか」
「それで良かったのよ。変に溺愛されたから超キモかった」
「子供は? 子供達のことは?」
「子供達のことはカワイイわよ。だってあなたの子じゃないもん」
「何!?」
「私、好きな人がいるの。子供はその人の子供。好きな人の子供じゃなかったら愛せないと思ったから。ごめんなさいね」
「もしかして、それで夜の営みを拒んでいたのか?」
「ええ、膀胱炎なんて嘘。子供を作り終わったら、あなたに抱かれる必要は無いでしょう? 子供を作った時は、安全日にあなたに抱かれて危険日に大好きな彼に抱かれていたのよ。驚いた?」
「じゃあ、きみは幸せじゃなかったんだね」
「だって、私はまだ40代よ。60歳の爺の世話をして楽しいはずがないでしょう? 聞きたいことを聞けてスッキリした? 私はずっとあなたをキモイと思っていた。あなたとの結婚生活は楽しくなかったの。でも、これであなたの退職金や生命保険のお金が手に入るから、私はこれから幸せになるの!」
「ああ! 人生をやりなおしたい-!」
私の病状は一気に悪化した。
きみは幸せでしたか? 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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