ツ。最高に頭の悪い冒険
猫山鈴助
第1話 甚大な被害
「目覚めなさい…冒険者よ…」
ズキズキと痛む頭に、聞き覚えのない声が聞こえる。痛む頭を抑えながら、ゆっくりと目を開ける。そこは真っ白に光る神殿だった。しかも空に浮かんでいるようだ。声の主に目を向けると、そこには…
「やっと起きましたね、首を長くして待っておりました。」
筋骨隆々としたパンイチのアフロ男が立っていた、それもめちゃくちゃコワモテの。
「顔こわっ…」
「よく言われます。」
起きて早々に失礼な事を言ったと思ったが、アフロマッスルは特に気にした様子も無く、こちらをニコニコと見つめている。ニコニコと言っても、目はバキバキに開いていて笑っていない。ただ口角だけが、口裂け女のようにニイッと吊り上がっていて、乾燥した唇からはギザギザとしたサメのような、真っ白な歯が見えている。
「顔こわっ…。…で、ここは?」
「ここはアブノトール。あなたからすれば、異世界というヤツです。あなたは魔王討伐の為に召喚されたのです。」その言葉を聞き、俺の胸が高鳴る。
「つまり、」
「はい。」
「「異世界転生して俺TUEEEEするヤツ!!」」
「でございます。いえ、そのはずでした。」不穏な言い直しに、嫌な予感を覚える。
「あなたには召喚の際にとある問題が生じております。」
「待った、当ててみる。」
「どうぞ。何か賭けますかな?」
アフロはどこからともなく腰くらいの高さの樽を出現させると、そこに肘をついてこちらを見た。さながらギャンブルのディーラーのようだった。
「んー、そうだなぁ。じゃあ、花●院の魂を」
「花●院様はここから5kmほど離れた街にお住まいでございます。賭けるのであればご本人様に許可を取りに行ってください。」アフロは俺のボケに予想外の返答をする。
「え、待って。この世界花●院いるの!?」
「冗談でございます。」そしてサラリと俺の期待を裏切った。
「この頭痛と関係ある?」
「はい。」
「3日以内に頭が肥大化して内側から爆発する…とか?」
「北斗●拳は関係ありません」
「答えを教えます。召喚の際にとある事情で頭に甚大な被害が生じたため、時間経過と共にあなたの知能指数は低下します。最終的には赤子ほどの知能になり、低レベルな下ネタしか言えなくなります。」
「最悪だ…。」
「ええ、その状態で魔王を倒すことは出来ないでしょう。魔王を倒し元世界に戻ることが出来れば、この問題は治り、知能指数は元に戻ります。」
「なるほど、ちなみに他になんか報酬とか得られたりする?」
「ふむ。考えておりませんでした。確かに報酬があったほうがいいですね。」アフロは顎を撫でながら、少しの間考えると、こちらを見て言った。
「なら、この世界で手に入れたものを一つだけ、現世に持って帰っていいですよ。」
「なるほど、金目の物とかを持って帰れたら一生遊んで暮らせるな。ちなみにどうすれば手に入れたという判定になるんだ?」
「難しいことはありません。あなたに所有権が渡ったと私が考えれば手に入れたということにします。」
「なるほど。ちなみに…人は持って帰れるのか?」
「人の場合はそうですね、その相手が自分はあなたのものであると認識している場合は持って帰れることにしましょう。ただ、その人がそれを望むかどうかは分かりませんがね。」
「わかった。なら、さっさと攻略を始めなければな。」
「いってらっしゃいませ。次に目を覚ます場所はモストール平原という比較的安全な平原でございます。死んだ際は復活できますが、ペナルティがございますので、命は大切になさってください。」
「ペナルティ?」
「ええ、復活まで時間がかかるのです。」
「どのくらい?」
「最初は短いです。しかし、死ぬほどにその期間は延びます。大切な仲間などが天寿を全うしないように、なるべく死なないようにしてくださいね。」
「そいつは怖えな、ありがとう気をつけるよ。」
そして、視界がホワイトアウトする。
「起きてくださいませ、」
透き通るような若い女性の声で目が覚めた。
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