百舌感情

一畳一間

『緩利沙咲と四十内かいなの関係性』

 四十内あいうちかいなさん。やんごとない女子高生。地元に続く名家の出ではあるけど、マンガのお金持ちみたいに傍若無人でもなければ、教師のほうがペコペコするわけでもない。けれど、他の生徒より抜きん出ている。


 何が頭抜けているかというと、そのである。身だしなみは校則に違反しない黒髪を横結びにまとめ、制服の着崩しはしないことは当然。その上、武勇伝──武勇という言葉は四十内さんの手弱女たおやめぶりからすると、およそ似つかわしくない言葉だけど──がいくつもある。


 たとえば他にこんな噂がある。


──期末テストでは彼女一人で我がクラスの平均点を十点ほど上げているとか。


──創立以来こまめにマイナーチェンジされている学則の全てのヴァージョンをそらんじることが出来るとか。


──休日の外出着として制服を着用しているのは勿論、一歩とて校区外に出ないように遠回りをしているとか。


 真偽はともかく、こんな内容がまことしやかに語られるような女子生徒であることは真実だ。少なくとも四十内は周りからこう見られていて、ある部分でそう要請されている。


 そんな四十内さんとわたしのつながりはクラスと部活だけ。


 どちらも二年ほどの付き合いになるが、まぁ同じコミュニティに所属する人は他にも居るので、別段特筆すべきことではない。


 さて、四十内さんの人となりを並べ、そして数行を費やして再認したのにはわけがある。


 やや冗長にもなったが、わかってほしい。


 彼我ふたりの間にはありふれた接点しか持ち得ない、あくまでわたし、緩利ゆるり沙咲ささきはその他大勢と四十内さんという関わり方くらいしかしていないことを。


 そんな訳だから、内面を把握しているわけでないし、わたしの人物評としてはあくまで外聞をなぞるばかりの筈だけど。


──けど。


 けど、美術室で部活動に励むわたしの財布をジュースを買いに行くという蛮行をしでかしているのも、確かに四十内さんなわけで。


「さぁ! 恋愛について語らいましょう! 」

 そう言って部室のドアを開け放ったのも、やはり四十内さんに相違なかった。

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