学生トーク「あこがれ編」

山田 武

学生トーク「あこがれ編」



「──あこがれ、についてどう思う?」


「……えーと、即答が難しいな」


 変な内容ならそれはそれでサクッと返すことができるのだが、少しばかり考えさせられる内容だとそうもいかない。


 ある意味、見つめ直すというか何というか再認できるって感じなんだよな。

 今回で言えば憧れ、それが意味するものをより考えて……うん、奥が深い。


「これってさ、その単語自体の意味を深く語る必要は無いんだよな」


「毎回お前ってそんな感じだけど、たまに持論とか挙げるの面白いよな」


「……うるさい。まあ、なら俺なりのあこがれ──つまり、理想のシチュエーションを挙げる感じでもいいってことか」


「おう! そうそう、そういうのもたまには聞きたい!」


 いつもいつもスマホで調べた内容を言っているだけなので、たまにはそうじゃないのも新鮮なのか…………うん、ただ稀に出すからこそ新鮮なので、頻度は考えよう。


「まあ、アレだな──トリの降臨だ」


「…………ん? えっと、鳥が出てくる場面がお前の理想ってことか?」


「いやいや、そうじゃなくて。トリ、つまり終盤辺りでパーンッと特殊演出か何かで誰かが登場するんだよ。敵か味方かはその作品次第だけど、とにかくそういうのが俺にとってのあこがれのシーンなんだよな」


 現実でそんな展開があるかと言えば、少なくとも俺には無いとしか……。

 もちろん、絶対に無いとは言い切れないものの、俺の人生という物語だとな……。


「なんか、難しいな……」


「うーん、なんていったらいいかな……こうただ派手に、ってわけでもないんだよな。エピローグ後に主人公たちが知らない間に起きる展開だったり、そういうのもいいな」


「……分からなくはない」


「だろう? ただバトル物なら、主人公たちが戦い終わった後に出てきて、倒し切れていなかったヤツを瞬殺……みたいな展開もなかなかにあこがれるよな」


「あー、そういう感じなら分かる……か?」


 まだ上手く伝わらないな。

 時計を確認し、休み時間はまだもう少しだけ残っていることを把握する。


「よし、なら俺のおすすめの小説を読んでくれよ。ソレで分かるはずだ」


「はいはい、分かった分かった」


 これでこいつも分かるはずだ。

 ふっ、また一人布教してしまった。


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