相談:口裂け女
0.酔いの道
私はほろ酔い気分のまま夜道を歩いていた。
仕事を終え、友人と飲みに行った帰り。仕事や彼氏に対する愚痴に花が咲き、気づけば杯も進んですっかり出来上がっていた。
千鳥足で進む帰り道の先の街灯の下。ぽつりと佇む、つばの広い赤い帽子を目深に被った赤いコートの女が視界に映った。こんな時間に目立つ格好だな、なんて酔った頭でぼんやりと考える。いや、夜中だからこそ目立つ格好をしているのか。黒ずくめだったら気づかれずに車に轢かれる危険もあるし。何にせよ、私には関係のないことだ。
じろじろと眺めて、実は頭のおかしな奴で下手に絡まれても面倒だ。酔った頭でもそれくらいの理性は残っている。なるべく女を意識しないように俯き加減ですれ違ったのだが。
「痛っ……」
突如として頬に鋭い痛みが走った。反射的に手で押さえる。ぬるり、と指先が湿った。
え、と思い街灯の灯りに翳して見えたのは、指先をじっとり濡らす赤い液体。血だ。
咄嗟に振り返る。女がこちらを見ていた。視線がかち合う。深く被った帽子のせいで顔は見えないが、辛うじて見える顔は、頬を押さえる私を見て笑っている。
どうして。いや、それよりも。弓形に歪めた口は、耳まで開いていた。これじゃまるで、都市伝説に語られる口裂け女じゃないか――
ニタリと裂けた女の唇が言葉を紡ぐ。
「これで、あなたも綺麗……」
血の気が引くと同時に一気に酔いが覚めた私は、ハイヒールが脱げるのも厭わずにダッシュで家まで逃げ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます