夏空のヴィーナス
Izuki
プロローグ
「準備は出来たか?」
玄関で靴を履き終えた僕は、後ろを振り返って聞いた。
「あっ待って。携帯忘れちゃった」
そう言って部屋に戻ったかと思えば、ガサゴソと騒がしい物音が奥から聞こえてくる。
「準備出来たよ」
しばらくして戻って来た結月は、まだ待ち合わせの時刻までに余裕があるかのような笑顔で言う。
その笑顔に騙され僕は時計を見てみるが、やはり僕が見る限りでは今から家を出ても待ち合わせの時刻には間に合わない数字を指していた。
「じゃあ行こうか」
そんないつものことに、僕は取り乱すことなく結月の前では平然を装ってそう言える。
既に遅れているにも関わらず、僕の目の前でニコニコと嬉しそうに靴を履く結月。
僕は結月が一瞬目を逸らした隙に、待ち合わせの相手へ遅刻するという謝罪のメールを送っておいた。
「おーい、遅いぞー」
少し遅れて着くことになった僕たちに、大きく手を振ってくれている
「ごめん、携帯忘れちゃってさ」
そんな宙斗たちに結月は遅刻した理由を何一つ隠すことなく言った。
「なんか結月っぽい理由」
もう何度目かになる遅刻。宙斗の隣にいた
結月のおっちょこちょいな部分を知っているのは僕だけではない。
僕たち四人は長い付き合いの仲だ。それからあともう一人……
一年ぶりということを微塵も感じさせないその再会に、僕はどこか安心した。
「じゃあ行くか」
宙斗の一言に全員が頷く。
少しして、歩き出した僕の目に呆れるほど映り込んでくる晴天の空。
八月中旬のこの頃、なぜか決まって空は雲一つなく晴れている気がする。
それはまるで、君が早く来てとでも催促しているような。
それを想像する度、君らしいなと僕は思わず笑ってしまうんだ。
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