描きたいもの

コウモリダコ

描きたいもの

 結局、私の書きたいものは「人間賛歌」なのだろう。そんなことを思ったきっかけと共に、忘れないよう書き記しておく。



 私は、とあるゲームのあるイベントストーリーが大好きだ。11月に読み終わってから、今も余韻に浸っているので、そろそろ半年になる。それぐらい大好きなストーリーなのだ。

 努力を惜しまない人々が、決して豊かではない故郷で、仲間と離れ離れにならないよう、大きな組織に立ち向かうストーリー。共産主義的なユートピア。誰もが置いていかれず、誰もが希望をもって、明日へ向かう。そんなストーリー。

 ここまで書いて、わかる人はわかるだろう。あの中華ゲーのストーリーだ。大好きなんだよなぁ。


 私は、カクヨムや小説家になろうなどに投稿し始めた際、漠然とした「人気になりたい」という思いを抱えていた。今も、思っている。しかし、私には人気になれるような作品は描けなかった。当時流行っていたなろう系も、ざまあも。何一つ。

 人気になりたいのに、売れる作品が書けない。書こうとしても、頭が拒否する。本能が、「そんなのお前が書きたいものじゃないだろう」と叫ぶ。テキストエディタとおんなじぐらい真っ白になる頭。何度も何度も没にした。

 悔しかった。人気になりたいのに、私には書けない。ライトノベルが、売れる小説が書けない。


 けれど、私はこうとも考えていた。


 独り勝ちなんて、書きたくない。誰かの不幸で幸せになるような話を、空想の中で見たくない。みんなが幸せになれるユートピアが欲しい。


 みんなが幸せになって、努力は報われ、誰一人仲間外れにならない。そんなの、最高じゃないか。

 人の愛情が、つながりが、努力が、絆が、すべてが美しく輝く世界。それが、一番書きたいものだ。


 どこかで気づいていたはずなのだ。「売れたい」という気持ちに隠され、一番好きなものを見落としていた。情けなく思った。私の好きな小説は、人のつながりが美しいものばかりだったのに。


 イベントストーリーにいたあの土地の人々は、美しかった。勤勉さと寛容さをもち、強い絆で結ばれている。羨ましかった。私も、そうでありたかった。

 だからこそ、空想の中では、幸せを描く。私の本当に書きたいものは、きっとそこにあるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

描きたいもの コウモリダコ @Samejimaaan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ