第19話

翌朝。

開店前の弁当屋で愛美が一人で仕込み作業をしていると、梨花が様子を見に来た。


二人きりだ。今日こそ決着を付ける。


「これ以上お金は渡せない、泥棒もできない」

愛美はハッキリと梨花に告げた。


だが梨花は知らん顔だ。

「貸してって言ってるのよ。それと泥棒ってなんのこと?」


「じゃあ貸せない。貸した分も返して!」

「急にそんなこと言われてもね」


愛美は詰め寄るが、梨花は平然としている。

「あっ、そうだ。お金無いんだったらデリヘルで働けば。紹介するよ」


梨花はペロッと舌を出した。

「援交してたんだもん。慣れてるよね」


愛美の我慢は限界だった。

この女がいる限り未来はない。


愛美は咄嗟に調理場の包丁を掴んだ。

梨花に向けた刃先が震える。


高校2年生、17歳。

軽い気持ちで始めた『援助交際』が、21年経っても愛美を苦しめる。


38年生きて、たった1年の過ち……。 

38分の1の過誤が愛美を追い詰める。


だがそれは、梨花も同じだった。


梨花が大声で叫んだ。

「被害者面するんじゃないよ! 誘ったのはアンタでしょ!」


梨花は絶叫した。

「アンタのせいで私の人生が狂ったんだ! 殺したいのはコッチだよ!!」

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