第13話

中学野球部の保護者には、役割が二つある。

『練習試合の送迎』と『お茶当番』だ。


送迎は、自家用車がある家庭が交代でしてくれる。

泥で汚れた子供達を運んでくれるのだから、感謝のみだ。

父親がいる家庭は、試合の審判やコーチを務めることが多い。


愛美と梨花の家には「車」も「父親」もない。

『お茶当番』のみだ。

他の保護者は「公平に」と言ってくれるが、気まずい。

どうしても『お茶当番』の回数が増える。


『お茶当番』とは、保護者が交代で監督・コーチの世話をすることだ。

「廃止するべき」という声も出ているが、現場では続いている。


梨花から『ショートメール』が届いた。

「明日のお茶当番、代わって」


えっ? 前も交代したのに……、と思うと、

すぐに保護者のグループLIEEが届いた。


『明日のお茶当番は斎藤さんと交代しました。

斎藤さんは来週用事があるので、今週の方がいいそうです。

代わってほしいと頼まれたので、交代します』


これでは愛美が我儘をいってるようだ。


すぐに別の保護者からLIEEが入る。

『小林さん、急な対応ありがとうございます』

『小林さん、助かります。来週よろしくお願いします』


愛美は心底から悔しかった。

「いいえ、小林さんから頼まれました。来週できます」

とLIEEを送りたい! 


だが、グループLIEEで秘密をバラされる可能性がある。

野球部の保護者、監督、部員、学校関係者……、

一斉に、援助交際をしていた過去を知られる。

息子の壮太にも伝わるだろう。


『グループLIEE』が恐ろしい。

『ショートメール』に身がすくむ。

スマホが鳴るたびに平常心が飛んでいく。


愛美は震えながらスマホを見つめた。

このスマホは、「梨花に握られている」気がする。

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