第8話
呼び出された愛美は、ダイニングの椅子に座る梨花の足元で土下座をしていた。
愛美の上半身は下着のみで、
剝き出しの左腕に直径5cmほどの傷痕があった。
梨花が長袖シャツの上から差した場所だ。
「久しぶりに見たかったのに、枯れたんだ、薔薇」
この傷跡は、ノリで入れた薔薇のタトゥーを消したものだ。
壮太と元夫には、火傷と言っている。
タトゥーを消すには、切除手術 削皮手術 植皮手術 レーザー手術があるが、
結局は「次の傷痕で隠す」だけで、傷跡は一生残る。
手術は激痛を伴い、術後も長期間痛みが続く。
愛美は、この傷跡を「見ない」で生活してきた。
着替えや入浴中も「見ないように」暮らしてきた。
「入れた自分」を忘れるように毎日を生きてきた。
だが、その傷跡が、いま晒されている。
治まった痛みが復活した。
心も体もガクガクと震える。
愛美と梨花は高校の同級生だ。
二人は高校2年生のとき『援助交際』をしていた。
今なら『パパ活』というが、どっちにしても『売春』だ。
みんなやってる、たいしたことじゃない、お小遣いほしいし、
軽い気持ちで高2で始めた『援助交際』は、翌年の春まで続いた。
でも3年生になると、将来を考えてキッパリ辞めた。
別のクラスになった梨花は『援助交際』を続けたようだが、
3年の一学期で高校を中退して、それから一度も会ってない。
愛美は女子大に進学して、女子の友達と明るく過ごした。
たまにコンパに誘われても、男に持ち帰られたりしない。
健全な学生生活だった。
元夫が「男の手垢が付いてない」と思ったのも当然だ。
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