第29話 経験の果実①

俺たちは地下25階に降り立った。


カッシーヴォとの交渉の際、レベル上げのために地下20階までは来たことがあったが、それより下には行ったことが無かった。


地下21階以降はトレントが厄介だった。

植物系特有の静かな気配で不意を突かれ、さらに刀が幹を斬り捨てられず仕留めづらい。

苦手な相手だ。


「コットンはもう少し注意深く気配を探れ。いずれ植物系の気配も感じられるようになる」


「…本当か?さっきからやってるが、さっぱりだぞ?」


「慣れだ慣れ。お前ならできる。それとフリス、目が良いお前は観察に注力しろ」


「観察ですか?」


「あの木の枝をよく見てみろ。トレントは普通の植物に比べて攻撃的なナリをしている。お前ならコツを掴めば簡単に見分けられるようになるはずだ」


そう言いながらジンは、トレントの刺突用に尖った枝や、打撃用に妙に太い枝を指さす。


「が、がんばります!」


自分で試行錯誤しながらダンジョンを進んできた俺にとって、経験豊富なジンのアドバイスには目を見張るものがあった。


そして注目するべきことがもう一つ。


ジンのけた違いの強さだ。


刀による斬撃と拳による打撃。

武器の違いや相性こそあるが、俺が苦戦したトレントを拳打一発で仕留めるジンに言葉を失ってしまった。


「レベルもほとんど同じなのになんで……?」


「ははっ。潜ってきた修羅場の数が違ぇ!」


「くそぉ……」


だが、漠然と強さを追いかけるよりも、目標が明確になったと前向きにとらえることにした。




「……ところでよ」


「……――?なんです、ジンさん?」


「グルルルルル…」


「なんで、がいるんだ?」


「かわいいですよね、こいつ」


「そ、そうじゃない……!なんでウォルナットノッカーが一緒にいるんだよ!?」


ジンの言う事はもっともだ。


なぜかあの性悪リスが同行していたのだ。

しかも、70~80cmほどの体格が小さくなり、フリスの肩に乗れるほどになってしまっている。


「うーん………どうしてでしょうか?」


「「おい!」」


「でも、害は無いしかわいいから連れていきましょう」


「……かわいい………だと?こいつがか?」


「睨みつけて歯をむき出して呻ってきてるぞ……俺には害しか感じねぇな」


「グルルルルルルッ」


本当に、なぜこいつが一緒に来ているのかまったく分からない。


「………………。」


そういえば、ヒメカの話をしているときに、こいつから敵意のようなものを感じたことがあったな。

ヒメカに何か恨みでもあるのか?


いずれにしても、厄介そうな同行者が増えてしまった。







地下25階に着いてからもしばらく移動した。

特別なフロアなのか、これまでの階層に比べて広大な気がする。

猫科の猛獣のような魔物や、蛇、虫、トレントなどを相手にしながら進んだ。


「まだ着かないのか、ジンさん?」


「もう少しだ。というか、ジンさんなんて言いづらそうだな。ジンでいいぞ。フリスもな」


「そうか。じゃあ、遠慮しないぞ?」


「ああ」


「僕はジンさんのままで」


「ま、どっちでも構わんさ」


その後、目的地のかなり近くまで来たという事で、少し休憩を取ることにした。

ここで活躍するのは当然フリスのマジックバックだ。


水筒型の固有武器は物資の収納に特化した性能で、攻撃力がゼロの代りにその容量に限界を確認することができない程だ。


「はい。パンとスープ、それとお水です」


「サンキュー、フリス」


「…………」


クルミの魔石が5,000程残っていたため、300個ほどを使って基本メニューや保存食品、大量の飲料水を収納してもらっている。

時間が止まるわけではないが、経過時間の遅延が働くようで、スープもまだほんのり温かい。


「………ありえねえ」


ジンが出された食料を目の前にブツブツと何やら呟いている。


「信じられねえ……これがあれば、あの日々は……」


「早くしないと冷めますよ?」


「ほっとけ。いずれ我に返って食い始めるだろ」


俺が言った通り、しばらくしてジンも目の前のパンとスープにがっつき始めた。


「キュルゥ!」


フリスからパンをもらった性悪リスが嬉しそうな声をあげた。

完全に餌付けされているな。


「お前って……そんな声出すんだな」


「―――――ッ!?グ、グルルルルルルルァッ!」


「はいはい……」


休憩が終わり、15分ほど奥へと進む。


「――――で、でけぇ………!」


「クルミの木も大きかったけど、あれよりも……っ」


ウォルナットノッカーが住処にしていたクルミの木。

それも幹の直径が10mはあるだろう巨木だったが、さらに一回り大きい怪物級の樹木。

これだけ大きければ見えてもおかしくなさそうだが、周りの木々に遮られてその一端すら遠目から確認することもできなかった。


そして、青々と茂った葉に見え隠れしている赤いこぶし大の果実。


「あれが――」


「経験の果実!」


「その通りだ。あれが、俺たちの切り札となる目的の物だ」


「グルルルル……」


俺たちは気が遠くなるほど大きな木を見上げ、それぞれが息を整える。


「準備は良いな?いくぞ!」


「おうっ!」「はいっ!」


ジンの掛け声とともに、俺たちは一斉に走り出した。





―――――――――――

■コットン 17歳 男

LV:51

力:150

速:163

魔:115

EXP:1,069,000pt


■コットンの刀

攻撃力:102

耐久値:50

魔石値:10,892


特殊能力-刀:進化する(10,892/100,000)

特殊能力-鞘:修復する(87/115)

―――――――――――


―――――――――――

■フリス 16歳 男

LV:49

力:49

速:129

魔:197

EXP:1,015,000pt


■魔神の胃袋

攻撃力:0

耐久値:99

魔石値:11,013


特殊能力Ⅰ-物質の収納と取出

特殊能力Ⅱ-????(11,013/100,000)

―――――――――――

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