第3章 経験の果実
第22話 剣と袋 前編
俺とフリスはコットン班として申請も出し、正式に仲間になった。
「………お前、カッシーヴォとつるんでなかったか?」
申請時にゴブリン看守が訝し気な顔で睨みを利かせながらフリスに問う。
「今日からこっちのコットンと組むことにしたんですよ」
「ふーん………そうか」
納得しきれない様子ではあったが、それ以上何かするわけでもなく申請書を受け取った。
「……………………どう?」
「監視がついた」
「やっぱりね。何か奥の方に目で合図を送ってたから察しはついたよ」
「あのゴブリン看守、何者なんだ?」
「ゴブ………………っ。ヒ、ヒゼン看守ね。君の想像通り、ある人物の手先だよ」
ふーん。
あのゴブリン看守、ヒゼンっていうのか。
おっ、『ゴブリン看守』って単語がフリスの笑いのツボにはまったな。
肩が小刻みに震えているぞ?
その後、フリスの震えは少し長引いたがやがて収まった。
「誰が聞いてるか分からないんだから口には気を付けなよ?」
と、フリスに忠告された。
自分だって散々笑っていただろうに。
◆
さて、俺たちはウォルナットノッカーの棲む木のウロまで来ていた。
フリスのマジックバックの性能を確かめたかったのだ。
カッシーヴォからの解放を最優先にしていたため、その時は物の出し入れができるかだけを確認して交渉に臨んだのでその時間が取れなかった。
そして今度は班を組んで監視の目が強くなったため、どんな目が光っているか油断できなかったため、ダンジョン内で安全を確保できる場所を探そうという事になった。
そこで馴染みの木のウロ、なのである。
ウォルナットノッカーが貯め込んでいたクルミを一度全部吐き出させたため、今では一日に生産できる数十個×日数分しか貯蓄がない。
ウロの中に飛び込むと、例に洩れず目を光らせた性格の悪いリスがカーンと良い音をさせてクルミを売ってくるのだが、数が少ないので一時間もかからずにそのクルミを全て叩き切って魔石に変えてやることができる。
すると性格の悪いリスは威嚇する意外にやることの無くなるのだ。
これで安全が確保されたと木のウロを間借りさせてもらい、それぞれの固有武器の性能をゆっくりと確かめようというところだ。
ここまで来るのに、魔物を狩りながら実は別の検証も行ってきた。
管理フロアで経験値を抜き取られるはするのだが、だからと言ってレベル1のまま進んでいける程ダンジョンは甘い場所ではない。
レベル上げに費やせる時間と道中の安全とのバランスを取りながら進むことが大事だった。
そして検証についてだ。
おれたちは同じ班を組んだが、魔物を狩った時の経験値がどう割り振りされるのか知る必要があったのだ。
フリスにその辺の事を聞いてみたが、
「僕はカッシーヴォたちに同行こそしていたけど、班の編成には入れてもらえてなかったから分からないんだ」
と言っていたので、じゃあ実際にやってみようという事になった。
まずはフリスを後ろにおいて俺だけで戦うと、俺だけに経験値が入る。
魔物との接触をフリスにやってもらって入れ替わりで俺が倒すと、二人に経験値が入る。
俺が接敵して、フリスに石ころを魔物にぶつけてもらってから俺が倒すと、二人に経験値が入った。
そんなことをいくつか試して、効率よく二人とも経験値が入る行動の確認が終わった。
フリスの固有武器は攻撃力がゼロのマジックバックなので、フリス自身もあまり戦闘向きではないと思っていたが、これが意外と動ける。
力こそないが、素早さはそこそこあるので、管理フロアで遠距離の武器を買うという方向に落ち着いた。
二人で木のウロの中で腰を下ろすと、性格の悪いリスが威嚇してくる。
「グルルルルルッ」
「お前は嫌だろうが、他に安心できるところが無いんだ。ちょっと邪魔させてもらうからな」
いくら威嚇して尻尾を振り回しても無意味だぞ。
クルミの弾数が今はゼロなんだからな。
―――――――――――
■コットン 17歳 男
LV:18
力:53
速:57
魔:40
EXP:186,420pt
■コットンの剣
攻撃力:45
耐久値:99
魔石値:156
特殊能力-剣:進化する(156/10,000)
特殊能力-鞘:修復する(39/40)
―――――――――――
―――――――――――
■フリス 16歳 男
LV:16
力:16
速:42
魔:65
EXP:146,890pt
■魔神の胃袋
攻撃力:0
耐久値:99
魔石値:10213
特殊能力Ⅰ-物質の収納と取出
特殊能力Ⅱ-????(10213/100000)
―――――――――――
俺のステータスについては特段変わりなしだ。
カッシーヴォとの交渉前より少しだけ魔石値が上がってはいるが、微々たるものである。
続いてフリスについてだが、ツッコミどころが沢山ある。
まず聞いていた通り、マジックバックの攻撃力はゼロ。
だが、これは前情報通りなので問題ない。
「………お前の固有能力、食欲ありすぎじゃねえか?」
フリスに罪はないのだが思わず文句を言ってしまう。
せっかく、10,000個もの大量の魔石を費やして封印を解いたと思ったら、あっさり桁違いの数を要求してきやがった。
「そうだねぇ。物以外に何か入れられるものなんてあるのかな?」
「そもそも名前が物騒だ。『魔神の胃袋』だなんてよ。いつか何でも溶かしちまう胃液でも吐き出すようになるんじゃねえだろうな?」
「うーん……」
俺たちはステータスをボードを前に難しい顔を突き合わせて呻っていた。
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