第10話 魔石強化

「こ、これは楽しい…!」


今俺は地下14階で魔物狩りをしている。


森林タイプのフロアのようだ。

出てくる魔物はオーク、イエローバタフライ、レッサーマンバの3種類。


オークは二足歩行の豚顔の魔物。

力自慢のようだが、前に戦ったゴブリンソードマンよりも技術的には劣り、パワーは変異種ゴブリンとは比べるまでもない。


一点だけ、槍の柄に曲刀の刃を取り付けたような薙刀に近い武器を振り回すため、間合いに関しては注意が必要だ。

刃の攻撃だけでなく、石突を使った攻撃を組み合わせてきたら少し苦戦したかもしれない。


イエローバタフライは大きめの蝶々の魔物で、レッサーマンバはコブラのような蛇の魔物である。

この魔物たちにはオークよりも注意を払って戦う。


ずっと、ゴブリンと戦ってきた俺には、武器持ち二足歩行の魔物はやり慣れている。

だが、野生動物や虫タイプのような魔物との戦闘経験が少ない。


イエローバタフライの鱗粉は吸い込むと重度の花粉症のような効果を与えてくるし、ヒラヒラとつかみどころが無い。


レッサーマンバは毒持ちで動きも不規則で意外と速い。ジャンプもしてくるので気が抜けない。


だが、これまでの経験が活きているのか今のところ傷を負わずにどれも倒せている。


そして―。



「ステータス」

―――――――――――

■コットン 16歳 男

LV:8

力:24

速:29

魔:16

EXP:6,420pt


■コットンの剣

攻撃力:45

耐久値:99

魔石値:6


特殊能力-剣:進化する(6/10,000)

特殊能力-鞘:修復する(16/16)

―――――――――――



「魔石強化は癖になるな」


この監獄ダンジョンに来て、初めて興奮している自分がいた。


倒した魔物は魔石となって、地面に落ちる。

それを「吸収する」というイメージで剣を向けると、魔石がいくつかの光となって流星のように剣と鞘に吸い込まれるのだ。

そのエフェクトだけでも気分が高揚する。


たまらずステータスを確認してみると剣に関する項目が増えていた。

どうやら鞘は剣の一部として認識されているようで別々の表記はない。

俺は固有武器として変異種ゴブリンを倒した時に手に入れたが、普通の人は魔石で鞘を調達するのだろうか?


「一番はこれだな」


そう言って特殊能力の項目に目を向ける。


『魔石強化』と聞いていたので魔石を使った分、数値がその分上がっていく想像をしていたが、この剣は進化するのだ。

搾取されない成果があるというだけでも嬉しいのに、全く新しい特性を得る可能性が出てきた。


「燃えないわけがないよな」


この監獄ダンジョンを制覇するという目標は変わらないが、俄然やる気が出るというものである。


「とはいえ、今は魔石を剣に吸収させているだけだ。俺自身の技量が上がったわけじゃない。この強化に頼りすぎると、いざという時に動けなくなるかもしれない」


気を引き締め直して魔物を探す。


オークとは対長物武器の経験。

イエローバタフライは回避が上手い魔物を想定した訓練。

レッサーマンバは毒と不規則な攻撃方法を持つ相手との体さばき。


これらを意識して戦闘に臨む。

低レベルで変異種ゴブリンを倒せたのは、コツコツと地力を上げていたからだ。

その姿勢を崩してはならない。


初日というのにもかかわらず、一心不乱に魔物を狩り続けた。


「フウ……」


少し休憩を入れようとあたりを見渡すと、数人の囚人が地下15階に向けて歩いていく様子が目に入る。


「遅ぇぞ、フリス!ちゃっちゃと歩け!」


「は、はい!」


「ハズレなお前のために、俺たちは親切にも魔石を融通してやろうというのだからな~!」


「そ、その通りです!ありがとうございます!」


「お前は戦えない荷物持ちなんだ!遅れたら承知しねえぞ!魔石も無しだからな!」


「すみません!頑張ります!」



………。




魔石強化でせっかく気分が揚がっていたのに、嫌なものを見た。

俺よりも若年に見える小柄な少年に、寄ってたかって罵声を浴びせる数人の大人たち。

時々、小突いたり蹴りを入れたりする様はいじめそのものだった。


「そういえば、地下14階からは複数人で潜れるようになるんだったな。今まではソロでしか進めなかったが、チームで行動できるようになるという事は、いずれ一人では限界が来るということに違いない。となると、仲間選びが重要になってくるよな」


地下10階までは、必ずソロでの挑戦となる仕様のダンジョンらしい。

そのため一年間本当に一人きりで過ごしていた。

そういうこともあって、仲間探しには魔石強化と同じくらい密かに期待していたのだ。


だが、仲間探しのスタートとしては随分と気分の悪いものとなってしまった。


「まあ、さすがにあんなのばかりじゃないだろう。むしろ、慎重になるためのきっかけとしてポジティブに捉えよう。固有武器を強化しながら地道に探して―――ん?」


待てよ。

あいつら気になる事を言っていたな。


戦えない、とか。

ハズレだ、とか……。


地下10階をクリアすれば、恐らく誰でも固有武器を手に入れられるはずだ。

戦闘向きでないものが出てきたのか?


「ハズレの固有武器、か。でも、囚人にとって固有武器は魔物に対抗できる唯一のものなはずだ。なのに戦う事ができない固有武器…………そんなものがあるのか?」


フリス――――――少し気になる人物である。

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