僕らの時代のロボット事情

大原 藍

第1話 登場!7体合身ミンケイバー7Y、の1

 その日の空は濁っていた。太陽風が地球の環境と文化を少しずつ衰退させるようになってからは、蒼天が長く続くなんて日は少なくなり、曇天の空からは埃や砂の混じった雨が斜めに大地を強く叩きつけることが日常化していた。


 今週に入ってすでに四度目の空襲警報が鳴り響くと、外出していた人々が「またかよ」とうんざり顔をして空を仰いだ。


 西暦2060年。地球は宇宙人と思しき謎の存在からの侵略を受けていた。


 空襲警報のサイレンに、東京都町田市にある小さな工場に併設された民間警備会社「ミンケイ」が、にわかに慌ただしくなる。


 「鳳!大地!太平洋のパイロットは、直ちに!右京と左京はこれから儂が学校から連れ戻す!」神宮寺時宗じんぐうじときむね73歳の怒号が、今にも折りたたまれてしまいそうなプレハブ小屋に響く。


 「ラジャー!」三つの人影が慣れた様子で、くたびれた作業着の上から光反射素材のついたベストを着込む。走りながら、あきらかに安全第一を上からマジックで塗りつぶしたヘルメットを被り、地下のマシン格納施設(聞こえはとても良い)に駆け降りる。


 「いつも思うんだけど、このさ、あのあたりとかの崩落したとこって、直さなくていいわけ?」と、大地駆だいちかける。暗い照明の中、おそらく天井から落ちてきたものであろう、足もとに転がる石くれを、長靴で蹴飛ばす。


 「良いんじゃないの?余計なことを言うと『おまえが直せ』って言われてだぜ?」太平洋たいへいようが答える。


 「そりゃあ、イヤだな」


 かつて崩落した地下は、今となっては思った以上に広く、深い。訳あって拡張し続けたことで損なわれた耐久性の代わりに確保されていた。


 入口から下り傾斜を50mほど進むと、硬質感の半端ない重金属の塊が姿を見せる。


 「――うわ、よりにもよって双子のが頭かよ!誰だ最後に使った奴!」大地駆がうんざりした声を出した。


 「仕方ないだろ?俺たちのマシンの中じゃ一番使い勝手が良いんだからさ」


 「コンビニくらい自転車で行けよ。近いんだから」ため息をついて手近のマシンに乗り込んだのは鳳皇おおとりすめらぎだ。座席に座ると、手際良くエンジンをスタートさせる。


 「どうせこの後すぐに右京たちが乗るんだ。俺が表に出しとく」大型トラックを二台並べた幅広のマシンが、図体の割には静かなエンジン音を上げながら傾斜を上っていく。ガタガタと、てきとうにならされた坂道からの振動がコクピットから伝わってくる。


 「せめて走るところくらいアスファルト敷いてくれないかな」と、ぼやく。


 マシンがいよいよ公道に近づくと、出口付近に備え付けられた黄色いランプがここぞとばかりにけたたましいサイレンを鳴らしてクルクルと回転し始める。次いで『特機車両が出動します。歩行者はその場で止まって動くな』と、後半やけに恫喝どうかつめいた台詞が、これまたぶっきらぼうな女性の声でもってアナウンスされる。


 鳳皇は人の気配がまるでない道へマシンを出すと、砂まみれでアスファルトの隠れつつある道路のなるべく端へと車両を寄せた。それでも片側二車線の道幅は車両でほとんど占領され、軽自動車がどうにか数台通れる隙間しかなくなっている。以前あった中央分離帯は、警察の隙を見計らって少しずつ撤去してきたかいあって以前の面影はすでになく、現在は優秀な滑走路としておおいに会社の役に立っていた。



 ここは東京都町田市の外れ。民間警備会社「ミンケイ」の秘密基地。太陽風によって大規模な気候変動に巻き込まれた——今となっては人のほとんど住まなくなった過疎の街だ。



 今、地球は外宇宙からいわれのない侵略を受けている。


 


 ——これから始まるのは、そんな冗談みたいなお話だ。

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