世界征服、してぇよぉ~、してぇなぁ~!!

まらはる

学校の友人が世界征服したいそうです。

「世界征服、してぇなァ~~~~!!!!????」

「うるせぇよ」

 タイトルから紹介文まで何回言ってるんだよ。


 日本の、2020年代の、どこかの学校の教室である。

 我々の言動はフィクションであるが、文化や常識は、ノンフィクションと大差ないと考えて大丈夫だ。

 そして世界征服したいとのたまう彼は、俺の後ろの席の友人だ。

 以上、状況説明終わり。


「でもよぉ、男に生まれたからには一度は夢見るだろ? 世界征服」

「常識のように語られてもな……少なくとも俺は思ったことないし、お前以外の例を知らないな」


 コイツが普段から言動が奇特な友人なのは承知だが、世界征服をしたいというのはちょっぴり普段よりも突飛だ。


「そういうもんかァ? 俺はしたいけどよ、世界征服。世界が自分の思い通り……いや、思った以上に自分のために回ってる……そんなの、憧れねぇか?」

「何でも思い通りになったら、それ自体は嬉しいかもしれないけどな。それは肯定するけどな。でも、例えばブラジルやアフリカ……いやそこまで離れてなくてももっと言うと日本の隣の国、いや隣の県の政治を自由にできたとしても大して嬉しくはないけどな……」

 せいぜい、身近な出来事をなんとかしたいくらいである。

 自分の行く機会のない、遠い場所の出来事なんて、良くなろうが悪くなろうが、テレビの向こうの話でしかない。

「俺はあんまり頭が良くないから、変なこと言うかもだけどよ……」

 なんか定型の切り口来たな。

「ブラジルは貧困などの格差や高い犯罪率、熱帯雨林の破壊とか問題が多く抱えてるからそこに政治的に介入できるならしたいって思う人間も多いだろうし、アフリカは国名じゃなくて大陸名か地域名を指しているわけだから更に問題は多種多様で"ブラジル"と並べるのは違和感あるし、隣の国つっても日本の場合は西の大陸側だけじゃなく東はアメリカとも接してるからそこを下手に濁すと受け手によって大分意味合いが変わるし、隣の県も同じく色々あるけど例えば西側の県の話をすると山間部の過疎地域で伝統工芸の継承者不足問題があったりするし俺はその工芸品好きだからなんとかできるならなんとかしたいと思ってるんだけどよォ、だから世界を征服して思い通りにできるなら、けっこう嬉しいことだと思ったんだけど、なんか間違ってるかなァ?」

「間違ってねぇよ。そこまで考えてるなら、俺が浅はかだったよ、ごめんな」

 そうだね。世界のどの場所でも色んな問題が溢れてるので、大きな問題も小さな問題も、自由に解決出来たらそれは嬉しいだろうね。

「とはいえ、反論ばっかで悪いけど、真面目な話をしていいなら、俺はやっぱり嬉しさよりも困惑とか拒否感が大きくなるな、世界征服したところで。そういった問題ってのはだいたい根深いもんだ。例えば貧困だって、金をばらまけば済む話じゃないだろ。金が無いってのは、つまりだいたい仕事が無いのが原因で、じゃあ仕事を与えればいいかというと、そうでもない。これまでの仕事が無い環境に慣れきっていると、仕事が続かなかったりする人間も多い。いきなり始めれて長く続けれる仕事、を用意するのは当然難しいしな。そしてこれは貧困の原因の一側面であって、国や地域によってもっといろんな原因が複合してる場合もある。つまりなんでもできるからって、問題を即座に解決できるわけじゃないし、解決するなら根気よく責任を持って続けなくちゃいけない」

「あー、そっかァ……そういわれると、国の政治を自由にできても、どんな問題でもすぐ解決するわけじゃないんだなぁ……」

 ぼんやりした話口調だが、しみじみと納得してる。

 頭は悪くないみたいなんだよな、コイツ。

「でもやっぱり俺は世界征服してぇよォ~~」

「まだ妄言を吐くか。いや志は立派なのは伝わってきたけど」

「いろんな国、いろんな地域の問題を解決するには、時間かかるにしてもやっぱり政治とか思い通りにするのがベストってことだろォ?」

「それは、そういわれるとそうなんだが……」

 難しいが、難しいとはいえ前提の理屈としては、反論できない。

「とはいえ、まずは世界征服……つまりさっきから言っている"あらゆる国の内政を自在に思い通りにできる状況"ってのを目標にするとして、具体的になんか手段とかはあるのかよ」

「それなんだよなァ~~ッッ!!!!!!!!!」

 ここ一番デカい声だった。

「どうすりゃいいと思う!!??」

「知らねぇよ」

 これは本当に。

「いろいろやってみてはいるんだけどよォ~~、イマイチ上手くいかないんだよなァ……」

「既になんかやってんのか、なにやってんだよ」

 学生の身分でできることなんてたかが知れている。

 そりゃ、何やっても上手くいかないだろ。

「とりあえず検索エンジン扱うところから始めてよォ~~」

「……検索エンジン」

「世界規模のサービスにまではなんとかこぎつけてユーザー数もトップクラスでェ、売り上げも資金もイイ感じだったから他のIT系の商品やサービス……スマホとかAI開発とかも手ぇ出してェ、各国に支社とか立てまくってェ、他の国際企業や組織も資金援助してェ、提携やら協力やら漕ぎつけてェ、自然資源の調査や活用なんかもちょっとノウハウできて来てェ、宇宙開発も最近ようやく関われるようになってきてェ人工衛星も今年いくつか打ち上げれたんだけどォ……やっぱまだまだ世界って思うように上手くいかないって言うか……世界征服ってまだまだ遠いって言うか」

「……………………あー、じゃあ、その前に、検索エンジン? 扱ってるお前の会社? 名前、教えてくれるか?」

「————って名前でやってるぜぇ」

 名前はもちろんビックリするくらいに聞き覚えがあった。

 テレビでもネットでも、ちょっと見れば飛び込んでくる名前だ。

 そしてちょっと詳しくスマホで調べた。

 コイツの言ったことと、やってること、そして創設者兼CEOの情報が一致してる。

「へー、すごいことやってるな」

「スゲェだろ? でも、いろいろやってみたけど、世界征服ってどうすればできるんだろうなァそれが分かんないんだよなァ」

 俺はたっぷりと悩んで。

「……………………いや、俺にもわからんな。すまんな」

「そっかぁ、そうだよな、やっぱ難しいのか、世界征服」

 難しいよな。世界征服。

「まぁでも頑張ってみるよ。もうちょっとこの世界良くしたいし」

「おう、頑張れよ」


 ……俺はそう言うしかなかった。

 応援したい気持ちと、具体的なアイデアを出すのがなんとなく怖かったからだった。

 現在のインターネットの普及率を考えると、世界一のITサービス提供を提供している会社は、もう世界征服しているといっても過言ではないのではないか。

 世界を思い通りにはできないかもしれないが、思ったことは何でもできるくらいの立場であろう。

 世界征服、という言葉をよほど高いゴールに設定しなければ、すでにたどり着いているのだ。

 コイツの会社は、ちょっとしたニュースひとつで株が上下して世界経済を動かすし、各種各国への支援はそれこそ世界平和の底上げしてる実績もある。

 この友人はそれだけの偉業をこなしながら、俺の反論をどういう気持ちで聞いていたのだろうか。


 でも、あこがれはあこがれのままのほうがいいのかもしれない。

 "まだ世界を良くする余地がある。まだ世界には及ばないことがある"

 コイツがそう思い続けているなら、そっちのほうが良い気がしたからだ。

「あ、そうだ。今度スマホ買い替えようとしてるんだけど、お前のとこで開発してるので、一番おススメのある?」

「お、それ逆に聞くゥ? 相談に乗ってくれたし、最新でおススメのをちょっと割引で売るぜェ~~!!」

 騙してるような気もするが、まだ数年使うつもりだった他社のスマホを、コイツのとこのに買い替えてユーザー1人増やして応援するくらいが俺にできる精一杯なので、どうか手を打ってほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界征服、してぇよぉ~、してぇなぁ~!! まらはる @MaraharuS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ