第3話




  ◇



 ふと、目が覚めた。

 まだぼんやりと焦点の定まらない視界で時計を探す。


 ゆらゆら視線を彷徨わせていると、ベッドボードに置かれたデジタル時計が目に映り、それが示す数字に、私は残っていた眠気も忘れてがばりと飛び起きた。



「寝過ぎた……!」



 時刻はお昼の十二時。こんな時間まで惰眠を貪ってしまうとは。


 急いでベッドから降りようとしたところで視界を肌色が埋め尽くし、自分のあられもない格好を思い出す。



「……!」



 誰に見られるわけでもないのに、咄嗟にシーツを巻き付けた。


 辛うじて下着は身につけている。雪澄さんが着替えさせてくれたのかな……そう考えて、ぽっと頬が熱くなる。


 いけない、真昼間から私は何を。


 ふるふると首を振って、雪澄さんから貰った手触りの良いガウンを羽織る。ふあ、と欠伸を一つこぼしながら、私は寝室を後にした。





 そういえば雪澄さんが、朝ご飯作ってくれたって言ってたような。


 リビングに向かう途中、ふと思い出してキッチンの冷蔵庫を開けると、ホテルの朝食かと見紛うようなプレートが用意されていた。


 色むらのない綺麗なスクランブルエッグに、狐色のパンケーキ、苺ジャム。分厚めに切られたベーコンはカリカリに焼かれていて、出来立てを食べたかったなあと少し後悔する。



「本当、完璧だなあ……」



 朝ご飯どころかお昼兼用になってしまっただらしなさに撃沈しながら、私は家事まで完璧な旦那様を思い浮かべた。


 結婚してから、勤めていた会社は辞めてしまった。そうして欲しいと、雪澄さんに言われたから。

 確かに、金銭的な意味ではわざわざ働く必要もない。


 なら家のことは全て任せたぞ、という意味かと思って意気込んだものの、部屋が広くて大変だろうからと週に一度は家政婦さんが来てくれて、私がすることといえば洗濯とたまの掃除。それから料理くらいのものだった。それも、帰宅が早かった時なんかは雪澄さんが夜ご飯を作ってくれることもある。


 あまりに快適すぎる日々は少しの罪悪感もあって、パートや派遣でもいいから、仕事をしようかと思った日もあった。だけど「欲しいものがあるなら俺が全部買うから」なんて、そんなつもりじゃないのに雪澄さんが懇願するように嫌がるから。


 結局、少しだけ時間を持て余しながら、私は夜までの時間を贅沢に過ごしている。



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