一方、将軍義昭が思い描いた織田包囲網は武田信玄の撤退で大きく崩れた。

「あの信玄が?…

 他の大名は何をやってるんだ!?」

 義昭のストレスは溜まる一方だ。

「仕方ないですな、我々も力を貸しましょう」

 側にいたのは比叡山の僧侶達だ。


 文字の読み書きが出来ない人達がほとんどの時代、僧侶は知識の塊みたいに権力者には重宝されていた。

 僧侶自身にも権力が付いてくると直接政治にも口を出すようになり、朝廷や将軍の側には常に比叡山の僧侶がいた。

 比叡山は僧侶の総本山であり、各地の僧侶に大名への圧力を強めろと発した。


 特に織田に近い浅井と朝倉には圧力が強くなった。

「殿!上様から織田討伐はどうなってるかと…」

「くそっ!あの坊主、将軍になった途端に威張りやがって!」

 朝倉義景あさくらよしかげは義昭の変わりようにイラついていた。

「しかし殿、織田を討てれば我らは英雄扱いですよ」

「分かっている!

 長政はまだ返事を寄越さないのか!?」

 義景のストレスも溜まる一方だった。



 こうなると織田家の存在が際立ってくる。

「殿、武田が動かないのであれば一気に朝倉を叩いてしまいましょう!」

「…でもなぁ、長政がまだ返事寄越さないんだよな

 浅井家の領地を抜けてくんだからさ、一応了解取らないとダメだろ?」


 その浅井家は織田、朝倉の両方と同盟していて、両方から援護の依頼が来ている。

 更に将軍からの催促もあり当主長政は妻の市を前に悩んでいた。

「市、どうしようか?

 織田からも朝倉からも手を貸せって言われてるし、上様からは織田討伐の命が出てるし……

 信長殿は義理の兄貴だし、朝倉家はご先祖様からの仲だし…」

 正に板挟みだ。


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