第6話 私は君を治したい
「僕は暗殺者として生まれた。父さんやギルドのみんなから殺しの技術を叩き込まれた」
誰かに話したことも、話すこともなかった僕の過去。話したくないとすら思っていたのに、言葉が口からするすると出ていく。先生もイリオスも真剣な表情で僕の話を聞いていた。
「父さん、ってのがギルドの長なんだよな」
「うん。僕にギルドを継がせるために、父さんにはとても過酷な訓練を課された。怪我が絶えない毎日だった」
それこそ全身傷跡まみれになるくらいには。痛みが酷くて寝られない日も、逃げ出したくなる日も数え切れないくらいあったけど、僕にできることは従い続けることだけ。
「君の傷は多く、それに深かった。訓練の過酷さは想像に難くない。辛かっただろう……」
「代わり映えのしない毎日だった。訓練、訓練、また訓練。でもそんな日々の中で事件が起こったんだ」
今でも僕を蝕み続けるトラウマの原因で、僕が起こしてしまった事件。あんなことが起きなければ僕の歩んでいた人生は全く違っていたんだろうなと思う。
「父さんと組手をしてた時、僕は父さんに大怪我をさせてしまった。その怪我が原因で父さんの体の半分は動かなくなった」
父さんが一瞬、ほんの一瞬本気を見せた時の出来事。その殺気に怖気付いて、後先考えずに反射的に動いてしまった。気づけば地面に倒れ伏した父さんの周りには大人が沢山いて、周囲の僕を見る目は恐怖に染まっていたっけ。
「でも父さんはとても喜んでた。俺の息子はこんなにも強くなった。これでもっとギルドを大きくできる!って笑ってた。責められも咎められもしなかったよ」
「……狂ってやがるな」
イリオスがぽつりと呟き先生に小突かれていた。でも実際僕もそう思う。あの時父さんが浮かべていた笑みは狂気的で恐ろしかった。今でも記憶に焼き付いている。
「父さんはそんなだったけど、僕は自分のした事に耐えられなかった。僕の手は人の体を壊せてしまうって事実がとても恐ろしくて」
訓練で相手を傷つけるくらい何度もしてきた。だけど、自分を制御できなかったこと、取り返しがつかないくらい人を傷つけたのは初めてで。その時初めて自分の危うさを、人を傷つける、殺すということを理解した気がした。
「あの日から、僕は人を傷つけられない」
次の日の訓練中に僕のせいで相手が小さな怪我をした時、父さんのことがフラッシュバックした。傷つけた瞬間の感覚、父さんが死ぬかもしれないという恐怖、自分のしたことへの後悔、いろいなものが込み上げてきて。気付けば僕はうずくまって嘔吐していた。
「人を傷つけられない暗殺者なんて使い物にならない。父さんは無理やりにでも僕を元に戻そうとしたけど、何をしても無駄だった。むしろトラウマは酷くなるばっかりで」
人に触れただけで吐いてしまった時は最悪だった。壊してしまうんじゃないかって怖くなって、ゲロまみれで泣きながらごめんなさい、ごめんなさいって何度も謝った。
「父さんはそんな僕に見切りをつけた。お前は失敗作だって、拠点の洞窟の奥に作った牢屋に閉じ込められた」
辛かったし苦しかったし悲しかったけど、同時に少し安心したのを覚えている。これでもう人を傷つけなくて済む、って。
「そこからはただ日々が過ぎていった。具体的にどれくらい経ったかは覚えてない。気付いたらみんな死んでて、イリオスと出会ったんだ」
「そう、だったのか」
イリオスは言葉を発するのがやっとという様子だった。聞かれたから話したとはいえ、聞いていて気分のいい話ではなかっただろうから申し訳ない。
「話してくれてありがとう。君の事を少しでも知ることができて嬉しい」
「面白い話じゃなくて申し訳ないな」
あの時自信満々に笑わせてみせるって言っていたイリオスがこんな様子なのだから、先生も内心少しは不快になっていないか心配だ。僕に人を笑わせる『勇者』のような力があればいいのに。
「シン君。私は君を治したい」
「治す?」
先生が予想外の言葉を口にした。確かに診てくれるとは言ったが、まさかそこまでしてくれるなんて。でも、どうやって。
「やはり君の心は怪我だらけだ。そして、そんな君の心を治す鍵はここにあると私は思う。だからシン君」
何かとんでもないことを言われる気がする。僕の世界がひっくり返るような。
「君も『勇者学校』に通わないか?」
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