優しい力の使い方 ~天才暗殺者でも勇者になれますか~

糸‪雫撚葉

プロローグ

 目を覚ましたらギルドが壊滅していた。


「……るか?」


 具体的には見慣れた風景は跡形もなく、滅茶苦茶になった洞窟内のそこら中で人が死んでいた。床も壁も抉れ、もはや誰のものかも分からない血で真っ赤に染まっている。


「……えるか?」


 だから声が聞こえるのはきっと気のせいだ。こんな地獄絵図の中、僕の他に生きた人間がいるとは思えない。


「おい!誰か!」


 だけど声は徐々に近づいてくる。この声の主がみんなを殺したのかと思ったが、理性が即座にそれを否定した。

 だって聞こえてきた言葉からは全く敵意を感じなくて、声からは純粋な心配の気持ちが聞き取れたから。


「生きてるかっ!?」


 次の瞬間、視界の奥の曲がり角から姿を現したのは汗まみれの青年だった。走り回っていたのか息を切らしている。青年は僕を視界に捉えたようで、息つく間もなくこちらへ駆けてきた。その瞳は生存者を見つけた喜びで輝いている。彼が根っからの善人なのだろうと感じさせる、とても眩しい光だった。


「はぁ、はぁ……。ここで、何があった?」


 目の前までやってきた青年が、乱れた息を整えながら僕に問いかける。何があったかと聞かれても、僕は寝てただけで。もちろんそれを彼が知るよしもないんだけど。


「……僕が聞きたい」


 口をついて出た言葉は、自分でも驚くほど冷えていた。

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