大好きな先輩
かなたろー
『あこがれの果て』
教室の窓から差し込む夕陽が、先輩の髪を黄金色に染めていた。彼女の名前は美咲先輩。高校二年生で、文芸部のエース。私の憧れそのものだった。背筋が伸びた姿勢、静かに本をめくる指先、時折見せる儚げな笑顔——すべてが完璧で、私には到底届かないものだった。
私は一年生の詩織。文芸部に入ったのも、先輩に近づきたかったからだ。彼女の書く文章は詩のようで、読むたびに胸が締め付けられる。いつか私もそんな言葉を紡げるようになりたい。そう思っていた。最初は。
でも、ある日気づいてしまった。先輩の美しさは、遠くから眺めているだけじゃ足りない。私の中に芽生えたのは、ただの憧れじゃなかった。もっと近くで、もっと深く、彼女を知りたい。彼女そのものになりたい。
放課後、文芸部の部室で先輩が一人で原稿を書いているのを見た。彼女の横にそっと近づき、肩越しに覗き込む。インクの匂いと彼女のシャンプーの香りが混ざり合って、私の頭をクラクラさせた。
「詩織ちゃん、びっくりしたよ。何か用?」
先輩が振り返って笑う。その笑顔があまりにも眩しくて、私は目を逸らした。
「先輩の原稿、読んでみたいです」とだけ呟いた。
「うん、いいよ。まだ途中だけどね」と彼女は優しく差し出してくれた。
その夜、家で先輩の原稿を読んだ。彼女の言葉はいつも通り美しかった。でも、どこか物足りなかった。私の心に渦巻くこの感情を、彼女は知らない。知るはずもない。この熱は、憧れなんかじゃ収まらない。
次の日から、私は先輩を観察し始めた。彼女が使うペン、彼女が読む本、彼女が歩く道順。部室に残された髪の毛を一本拾って、そっとポケットに入れた。彼女の匂いを嗅ぐと、頭がぼうっとして、何も考えられなくなった。
ある雨の日、先輩が傘を忘れて部室に残っているのを見つけた。
「先輩、私の傘に入りますか?」
「ありがとう、詩織ちゃん。助かるよ」
並んで歩く彼女の肩が少し触れた瞬間、私の中で何かが弾けた。彼女を私のものにしたい。彼女の全てを、私の中に閉じ込めたい。
その夜、私は決めた。先輩を誰とも共有したくない。彼女の美しさは、私だけのものにしなきゃいけない。
数日後、文芸部の部室に仕掛けを施した。放課後、先輩を呼び出す。
「詩織ちゃん、何か用?」
「先輩、私、詩を書いたんです。読んでください」
彼女が原稿に目を落とした瞬間、私は背後から細いロープを首に巻きつけた。
「詩織…ちゃん…何…?」
先輩の声が途切れ途切れになる。私は泣きながら、でも笑いながら、力を込めた。
「先輩、私、先輩になりたいんです。ずっと憧れてたんです。こうすれば、私、先輩になれるよね?」
彼女の身体が動かなくなったとき、私はそっと彼女を抱きしめた。冷たくなっていく肌、止まった鼓動。それでも彼女は美しかった。私は彼女の唇に自分の唇を重ねた。彼女の息が私の中に入ってくる気がした。
それから、私は先輩の服を着て、彼女のペンで詩を書き始めた。鏡に映る私は、どこか彼女に似ていた。彼女の言葉が私の指先から溢れ出す。
でも、時々思う。彼女の目が、私を見ている気がする。部室の隅から、じっと。
私の憧れは、永遠に私の中で生き続ける。彼女を、私の一部として。
大好きな先輩 かなたろー @kanataro_
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