憧れは理解から最も遠い感情?ふざけるな

りょっぴーぴあ

俺の憧れ

「なぁ、賢者。俺ら倒せると思うか?」


二人きりで魔王城を桟橋の上から見上げていると、勇者がそんな事を聞いてきた。


「どうだろうな。まぁどうであっても倒すしかないだろう」

「はは、そうだな」


俺は勇者が嫌いだ。

俺は、俺を馬鹿にする奴が嫌いだ。

だが俺は、俺を馬鹿にした奴は必ず見返してきた。

だからいつか、勇者を見返してやる。

世界の果てに現れた魔王を倒すため、この勇者パーティが結成されて早5年。

出会った頃に比べたらだいぶ仲良くなった。

それでも、人を印象付けるのは第一印象だ。

そういう意味で、俺と勇者の出会いはまさに最悪であった。

5年前、世界に魔王が現れ、我が王国では伝承に従い、異界より勇者を召喚し、魔王を討伐する事になった。

俺はその仲間、大楯、賢者、聖女の内の1人、賢者に抜擢された。

勇者とその仲間が登場する伝承は山程あり、子供は皆それを聞かされて育つ。

この世界で、勇者とその仲間に憧れない子供などいないのだ。

もちろん、この俺も例外ではなかった。

何なら他人よりも憧れる気持ちは強かったかもしれない。

だから勇者に出会い旅に出た時、「おとぎ話の勇者一行に憧れて、いつかこの様な事できたらと夢見ていたんだ」と言った。

大楯と聖女も俺同じような夢を抱いていたと言った。

それを聞いた勇者は何と言ったと思う?

「憧れは理解から最も遠い感情だよ。だからおとぎ話の様な勇者一行になりたいなら、それはやめた方がいい」と言ったんだ。

その時俺は、今まで俺を突き動かしていた動力憧れを否定されたと思った。

ある程度仲良くなった時に、あの言葉は何だったんだと問い正した。

奴曰くその時は舞い上がってしまい、粋がって元居た世界の有名な言葉をあたかも自分の言葉の様に言ったという。

ふざけるな。

見栄張りで俺を否定するな。

俺は、自らの身の丈をありのまま提示しない野郎は嫌いだ。

俺に言わせてみれば、憧れは理解から最も遠い感情なんかじゃなく、理解への第一歩を手助けするものだ。

乳幼児が最初、二足歩行を壁に捕まりながら練習するように、俺は何事も憧れなければ始まらないと思っている。

俺の中の勇者は、こんな低俗な見栄を張らない。

勇者を穢したコイツが嫌いだ。


「ついに来たな、魔王の玉座へ」


魔王城内部、玉座の間の扉の前で勇者はそう言った。

俺は、コイツが嫌いだ。

大楯と聖女が死んだとき、「ありがとう」と感謝を述べず、「すまない」と謝罪をしたコイツが嫌いだ。

真に勇ましき者なら、死した仲間に感謝しすぐさま前を向くはずだ。

だがコイツは、謝罪し引きずり傷つく。

馬鹿で愚かな、優しき者だった。

だから俺は、魔王を倒して、偉くなって、コイツが勇者なんかじゃないと広めて、コイツにあの日俺の憧れを否定したことを後悔させてやる。

お前を、俺の憧れた勇者にしてやるもんか。

お前には、優者という称号がお似合いだ。


「いくぞ、俺たちで」

「ああ、皆が憧れるおとぎ話になってやろうじゃないか」

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