番外 千の倉より子は宝

第25話

<font color="#cd5c5c">「…んんっ」</font>


 ぴちゃ…ぴちゃ…と濡れた音と、興奮した荒い息遣いが耳をくすぐる。


<font color="#cd5c5c">「……彦?」</font>


 肩ごしに振り返り、鈴は夫の名を呼んだ。

 昼でも薄暗い、蔵の中。鈴は壁に手をつき、着物の裾を捲くられ、腰を突き出した恰好で、もう小半刻も秘められた場所を彼にいやらしく舐められ続けていた。


<font color="#cd5c5c">「ん…、う、あ、あんっ…そんなに広げちゃ…」</font>


<font color="#4682b4">「しっかり広げないと、奥まで見えないだろう?……んっ、鈴……。そろそろ…、いいか?」</font>


 じゅる…と淫口から溢れた愛液を啜り、彦佐は立ち上がった。


<font color="#cd5c5c">「ん……挿れる?」</font>


 腰を突き出したまま、鈴が尋ねる。


<font color="#4682b4">「…挿れる。鈴だって、欲しいだろ?」</font>


 下帯をずらし、立派な一物を取り出すと、彦佐は鈴の淫口に大きく張り出した亀頭を埋め込み、腰を押し込んだ。


<font color="#cd5c5c">「んんーっ!」</font>


 深く挿しこみ、入口近くまで引き抜き、周辺の粘膜を擦る彦佐に、鈴は身を震わせて悶えた。


<font color="#cd5c5c">「だ、だめ…っ、こ、声が…出ちゃうっ」</font>


<font color="#4682b4">「出していいよ…我慢することない」</font>


 ぐっ…と力強い腰使いで彦佐が鈴の膣内で律動する。


<font color="#cd5c5c">「はぁ…あんっ、あんっ!や、ぁ…んっ」</font>


<font color="#4682b4">「んっ…、ほら、もっと腰、振ってごらん。……そう、いい感じだ…奥まで挿さってるのがわかる?」</font>


<font color="#cd5c5c">「ひ、彦…っ、そこ…」</font>


<font color="#4682b4">「ここだろ?鈴のいい所……たくさん、擦り上げてやるから」</font>


 後ろから腰を振りながら胸をわし掴み、小さな陰核を丁寧に攻め立てる彦佐。


<font color="#cd5c5c">「ああ…っ、彦ぉ…」</font>


<font color="#4682b4">「んっ!鈴の膣内なか、気持ちいいよ…」</font>


 透けるような白い肌に口づけながら、彦佐はゆるゆると、時にせわしなく動いて、鈴を逃げ場のない断崖に追い詰めていく。

 何度も何度も追い詰めて、でも…突き落とすことはしない。鈴が落ちそうになると彼女の意識を引きずり寄せて、また追い詰める。


 頭がおかしくなってしまいそうな快楽に気をやることも許されず、鈴は啜り泣きながら、彦佐の溢れ出る激情を必死に受け止め続ける。体から、半ば意識が抜け出しているような感覚のまま、手足の感覚さえわからなくなっているのに、彦佐の熱い昴りだけは鮮明に感じていた。


<font color="#cd5c5c">「は、ぁ…っ」</font>


 呼吸すら忘れてしまいそうな、圧倒的な熱の奔流に、鈴は耐える。

 高い高い断崖から身を乗り出しながら、落ちそうで落ちないぎりぎりのところで踏みとどまって、彦佐に身も心もを委ねて。


 ――…彼と共に、断崖から身を投げ出す瞬間の為に。



 子が出来、父と母の顔で過ごすことが多くなったとはいえ、彦佐は機会があれば、昼も夜もなく…鈴を欲しい時に欲しいままに求めてくる。

 狂おしいほどの切望感を持って抱かれる度に、鈴は女として満たされ、美しくなっていく。

 愛されて美しくなった鈴を、彦佐はさらに求め、連鎖は繰り返される。


 父になっても、母になっても――…男は男。女は女。

 二人だけの時には、いつでも男と女。


<font color="#4682b4">「…んんっ、鈴っ!あ、ああっ…!子…種を、鈴の中に…出す、よ…」</font>


 耳元で低く囁く彦佐の声と乱れた息遣いに、鈴は興奮と高揚感に震えを止められず、掠れた喘ぎ声を上げて、意識を飛ばす。


<font color="#4682b4">「…うっ、鈴っ!残さず受け止めてくれ!」</font>


 彦佐も鈴をつかまえたまま、飛んで――落ちる。


 二人は恍惚の絶頂感に声を上げながら高く舞い上がり、真っ逆さまに落ちていった。


<font color="#4682b4">「……久しぶりに、鈴の中に注いだな」</font>


 全て出し切った後で、満足そうな声音の彦佐が言う。


<font color="#4682b4">「そろそろ、子が欲しい」</font>


 脱力している鈴を支えながら、彦佐は彼女に耳打ちした。

 それに、鈴の淡い桃色に染まった体が色を増す。


<font color="#4682b4">「千の倉より子は宝というが……鈴が産んでくれる俺の子は、数千万の倉にも勝る。出来るだけ、たくさん欲しいと思う俺は……贅沢者か?」</font>


 二人の間には子が一人。まだ心がしかと結ばれぬうちに出来た、一人娘の琴。

 鈴の体のことを考え、琴が生まれてしばらくは、次の子は待とうと彦佐は決めていた。


 その琴も、もう三つになった。そろそろ、次の子を望んでもいい頃だろう。


<font color="#4682b4">「…琴のように可愛い子が、また欲しい」</font>


<font color="#cd5c5c">「彦…」</font>


 鈴はまだ整わぬ息で振り返り、夫を見た。


<font color="#cd5c5c">「…私も、欲しい」</font>


 目を合わせると、二人は微笑みを交わす。


<font color="#cd5c5c">「…私が、彦にあげられる…一番の贈り物だから」</font>


 鈴がそっと囁く。彦は彼女の体を引き寄せて、しっかりと逞しい腕で抱く。


<font color="#4682b4">「…俺にとっても、そうだよ」</font>


 彦は告げると、繋がったままの体をさらに密着させた。


<font color="#4682b4">「もちろん、鈴が一番の…俺の宝だ」</font>


 鈴の顔を引き寄せ、彦佐が同意しようとした彼女の口を塞ぐ。


 長い年月をかけた分、二人の絆は固く、結びつきは強い。

 愛し愛され、家族になり、共に生きる幸せの中に二人はいた。


 これからも、様々なことがあるだろう。

 それでも、揺るがない愛がある。信頼がある。


 口づけに彦佐の男の欲望が混じっていくのを感じながら、鈴は彼に再び身を委ねる。


 彼と、自分の願いが―――…近いうちに、きっと叶いますように。


 と、心の中でそっと念じながら。





<div align="right">終</div>

<font size="2">次頁は、あとがきです。</font>

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