第9話

そして、彦佐の逞しい身体に見合った、大きな雄の証は、彼女の狭い膣内にゆっくりと、時間をかけて最奥まで入り、二人の雄と雌を馴染ませながら動く。

 ゆるゆると動いて、鈴を狂おしい気持ちにさせ、激しく突き、理性を奪う。

 彦佐が入ってくると、鈴の身体は歓びにうねり、彼をしっかり包んで、彼が与えるものを全て受け入れようとした。

 拒んでも拒んでも、鈴の身体は彦佐を自ら受け入れ、彼と共に何度も果てた。


<font color="#cd5c5c">(彦佐…っ!)</font>


 彦佐を思い、鈴の中で何かが弾けた。

 それは、ずっと鈴が抑えて来た感情。自分を守る為に、見ないようにしてきた…彦佐への本当の気持ち。

 恐怖を押し流し、鈴は、無我夢中で脚をばたつかせ、不自由な身体を動かした。


 彦佐の元に帰りたい。彼以外の男に触れられたくない。彦佐以外の男を迎え入れるなんて、絶対に嫌だ!

 彼との大切な絆が、鈴の胎内にある。それを汚されるなんて、絶対に嫌だった。

 猛烈な勢いで暴れ出した鈴に、栄治は驚き、一瞬怯んだ。


 その瞬間。鈴の膝が栄治の急所に思い切り当たった。

 引き攣った悲鳴を上げて、栄治が鈴から離れる。

 機を逃さず、鈴はすぐに立ち上がると、納屋の外に転がるように駆け出した。

 走って走って、無我夢中で前を向いて走り続け、息がきれて、足がもつれ始める頃、ようやく恐る恐る振り返る。

 栄治が追い掛けてくる気配がないとわかると、鈴はやっと緊張をとき、足を止めた。

 後ろ手に縛られた縄を何とか外そうと格闘して、しばらく頑張っていると縄が緩んで来たので、ある程度緩んだ後、半ば無理矢理に手を引き抜いた。

 手首には縄の痕が残ってしまったが、縛られたまま帰れば、彦佐が何事かと思うだろう。

 余計なことで、彼を心配させるのは嫌だった。

 それにしても、栄治には身の毛もよだつ。

 彦佐に話せば、それなりの報いを受けるだろうが、話が大きくなりすぎる気がする。

 我が子を宿した鈴に対する過保護ぶりから考えると、激怒するに違いない。

 栄治には同情する気はさらさらないが、噂になるのは嫌だ。

 栄治をのさばらせておくのはしゃくだったが、やはり、ここは黙っておく方がいいだろう。

 鈴はそう考えると、痛む手首を摩りながら家路を急いだ。




<center>#img1#</center>



 戻った鈴を見ると、彦佐ははっきりと安堵を浮かべた顔になり、つかつかと近づいて来て彼女を抱きしめた。


<font color="#4682b4">「遅いから心配したんだぞ!迎えに行ったら、もうおまえは帰ったと言われて、すぐに戻ってきたんだが……、まだ帰っていないから何かあったのかと…」</font>


<font color="#cd5c5c">「ごめんなさい。途中で友達に会って……少し話し込んでいたから遅くなってしまったの」</font>


 嘘をつくのは嫌だったが、鈴は仕方なくそう言い訳して、うかがうように彦佐を見上げた。


<font color="#cd5c5c">「本当にごめんなさい」</font>


 申し訳なさそうに言われ、見つめられて、彦佐は渋い表情でうなずく。


<font color="#4682b4">「鈴が無事に帰ってきたなら、いいんだ。だが、あまり心配させるな。おまえとお腹の子に何かあったんじゃないかと思うと……生きた心地がしなかった」</font>


<font color="#cd5c5c">「彦佐……」</font>


 鈴は伸び上がり、彦佐の顎に唇を押し付けた。

 本当は唇にするつもりだったのだが、どうにも恥ずかしいので、手前でやめた。


<font color="#4682b4">「鈴……」</font>


 驚いた表情の彦佐から目をそらして、鈴はもじもじした。

 衝動的に行動するのには慣れていない。彦佐の思いやりが嬉しくて、彼の元に無事に戻って来れたことを実感して、つい勢いでしてしまったが、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


<font color="#4682b4">「鈴…」</font>


 彦佐が彼女の顔を上向かせ、腕の中の鈴の唇に唇を重ねる。

 唇が触れ合うと、身体の奥に火が点ったようになり、鈴の内側から熱が溢れてきた。彦佐の唇も、彼女に触れる手もあたたかく気持ちがいい。

 栄治に触れられた時には感じなかった、甘い疼きが腹部に生まれて、胸が熱くなる。

 いつだって、鈴の身体は正直で、彦佐に反応する。心が認めたくなくても、身体は彦佐を素直すぎるくらいに求めていた。

 彼を感じていた。ずっと。


 彦佐と唇が触れ合う感触に瞼を閉じて酔いしれていると、探るように、舌が唇をなぞり始める。

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