あこがれ【KAC20252】

snowkk

あこがれ

 河合瑞希かわいみずきは家がバレエ教室という環境で育ち、物心つく頃にはバレエを習っていた。

 瑞希は青山の小学校に通っている。大学までエスカレーター式に進学できる学校に通いながらバレエに勉強にという毎日を過ごしていた。

 そんなある日、両親に連れていってもらった有名バレエ学校の発表会を観て衝撃を受けた。

 それは名門青山青葉あおやまあおばバレエ団に併設されているバレエ学校の発表会で、そのレベルの高さには定評があった。

 瑞希はその発表会で二人の天才バレリーナをの当たりにした。京野美織きょうのみおり久宝くぼうすみれ。

 両親にこのバレエ学校に通いたいと言ったら思いのほか快く通わせてくれることになった。

 しかし、瑞希がバレエ学校に通い始めて一年が経つというのに、まだ、その二人に会うことがなかった。


 瑞希はバレエ教師の松野静香まつのしずかに聞いてみた。

「ここの発表会で京野美織さんという人を見たんですけど、どこにいるんですか?」

「彼女は今来てないのよ」

「え? やめたんですか?」

「いえ、受験だって」

「受験?」

「あなたと同じ学校の中等部みたいよ」

「え! そうなんですか」

「また四月から来るみたいよ」

「そうなんですか」


「おはようございます」

 突然の声に、瑞希が振り返ると京野美織が立っていた。


「合格しました」

「おめでとう」

 教室にいた生徒たちからのお祝いの言葉に嬉しそうな美織。

 驚きと羨望の眼差しで見つめる瑞希に気付いた美織が誰だろうという顔で微笑む。

「こんにちは」

「こ、こんにちは、河合瑞希です」

「京野です。よろしくね」


 その時、後ろから先輩の中学生が入って来た。すると教室にいた生徒が全員一列に並び一斉に挨拶した。

「おはようございます」


 その中学生が軽く会釈をして通り過ぎようとしたとき、緊張している瑞希と目が合った。

 久宝すみれ、中学生だが、このバレエ団バレエ学校の中で最も実力のある一人と噂されている。

 全国コンクールで一位に輝き、中学生にしてバレエ団の中でプリンシパル(バレエ団最高位)に君臨するバレリーナだ。

 ここのバレエ学校に通っていても会うことができない人と噂されてた。


「河合瑞希さん。覚えとく」

 すみれはそう言って去って行った。


 それは瑞希にとってあこがれの人との出会いの瞬間だった。

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