本作は湾多珠巳さんの創作の過程を記したものです。
物語を作る者なら多くが経験するであろうこと。
本作はその過程をつぶさに記します。
日々、混迷する思考の理路を組み立てて、組み直します。
この作業には、不思議な知的高揚感があります。
加えて、書けないことの客観視。
この絶妙な距離感が、本作の妙味ともなっています。
〝ものを書くこと〟は呪いに似ていると言います。
〝書かなくてはいけない〟という意識が脳裏から離れなくなるそうです。
そんな見方をすれば、これは呪いの作用過程なのかもしれません。
ただし、ものを書く本人に解きたいという意思はない。そんな奇妙な呪いです。
この逃れがたい創作への渇望を緩める手立ても本作には記されています。
〝長い逡巡〟
それを持ち得ることが、救いかもしれません。
思考できる時間こそが豊かな時間だと意識することが、創作の呻吟の慰めとなるのでしょう。
書けない時間は書くまでの時間。
本作は、そう思わせてくれる良い作品でした。