彼と私の夏物語

辛巳奈美(かのうみなみ)

彼と私の夏物語

高校二年生の夏、私は彼に恋をした。隣に住む、高校三年生の航平さん。日焼けした肌、少し乱れた黒髪、そして何よりも、彼の優しい笑顔に私はいつも心を奪われた。


航平さんは、近所の子供たちから慕われる存在だった。サッカーが得意で、いつも明るい。勉強もできて、誰からも好かれる、まさに理想の「お兄さん」だった。私は彼を遠くから見つめることしかできなかった。勇気がなくて、話しかけることさえできなかったのだ。


ある日、近所の公園で転んで擦りむいた膝を、航平さんが心配そうに手当てしてくれた。その時、彼の温かい手の感触と、優しい言葉に、私は心臓が飛び出すかと思った。初めて、彼の視線と視線が合った気がした。


「大丈夫?ひどく転んじゃったね。痛い?」と航平さんが聞いてくれた。私は、「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます、航平さん。」


それからというもの、私は彼と話す機会を少しずつ増やしていった。近所のコンビニで偶然会えば、少しだけ話をするようになった。彼の自転車の後ろに乗せてもらって、夕暮れの街を一緒に走った日には、まるで映画のワンシーンみたいだった。


「航平さん、今日は本当にありがとうございます。一緒に自転車に乗って、風を感じながら街を走るのは、まるで夢のようでした。」と私が言うと、「僕も楽しかったよ。君の笑顔を見ると、なんだか心が温かくなるんだ。」と答えてくれる。


思わず、「航平さんって、本当に素敵ですね。いつもみんなのことを気にかけてくれて、その優しさに助けられてる人はたくさんいると思います。」というと、彼は照れながら「君がそう言ってくれると、すごく嬉しい。」と伝えてくれる。


彼と話すたびに、彼の優しさや誠実さを改めて感じ、私の気持ちはますます大きくなっていった。しかし、彼は私にとって、あまりにも眩しい存在だった。彼に告白する勇気は、私にはまだなかった。


夏休みも終わりに近づき、航平さんは大学進学のため、この街を離れることになった。最後の日に、公園で彼と会った。夕焼け空の下、私は彼に、今まで言えなかった感謝の気持ちを伝え、そして、自分の気持ちを少しだけ、ほんの少しだけ、伝えた。「私はあなたといるととても楽しいです。いつもありがとうございます。」


彼の優しい笑顔は、いつものように暖かかった。そして、彼は私に、大切な宝物として、小さな白い貝殻をプレゼントしてくれた。その貝殻には、彼の温もりと、私の初めての恋の記憶が、永遠に閉じ込められている気がした。


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彼と私の夏物語 辛巳奈美(かのうみなみ) @cornu

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