第2話 いのち
南アルプスに中央アルプス、天竜川。
第二次大戦中、私の祖母と母の兄達は、祖父の兄弟が住んでいる長野県飯田市に疎開していた。
祖父は東京に残り、知人の印刷所を手伝っていた。しかし出征するため徴兵検査を受けた。
「俺、甲だった」祖父の知人はそう言って出征する覚悟を決めたが、祖父は身体が弱くて検査にひっかかってしまい甲乙丙の丙という結果で戦地には行かなかった。
「すまない」
「何でお前が謝るんだ」
「俺だけ残ってしまってさ」
「お前の分も戦ってくるから、長野に行けよ」
「え…」
「家族がいるじゃないか、俺は一人身だから、ここは閉めようと思っているんだ」そう言うと祖父に紙を渡した。
「俺の知り合いが長野で印刷の仕事をしているって話した事があっただろ、連絡してあるから訪ねてみろ」
「ありがとう…」
数日後、祖父は祖母達の元へ向かい、知人は出征していった。仕事も知人の紹介で働くことが出来た。
1945年3月9日から10日に東京大空襲があったのを、祖母達も知る事になった。
1945年8月6日広島に、9日長崎に原子爆弾が落とされた。
1945年8月15日の正午、ラジオから終戦して日本が負けたと伝えられた。
この戦争でたくさんの人々が犠牲になった。
祖父母達は、兄弟達の家を後にして別々に暮らす事になった。
2年後-1947年4月20日、戦後最初の選挙投票日があり、民家の殆どが出払っていた時、大火が発生した。
桜の花が咲き誇り、お弁当を広げてお花見をする人々で賑わった。
「火事だ!火事だ!」誰かが大声で叫んで走っている。
大きな炎が渦を巻いて燃え広がる。
「早く!早く!」
「避難だ!向こうにも火が回った!」
「学校に避難しろ!」
「遠くに走れ!」
お花見をしていた人々も、着の身着のまま避難した。
街全体が空襲を思い出させるかのような火の海で包まれていた。
選挙帰りに祖父母達一家もお花見に行ったが、11時48分頃、長野県飯田市で発生した大火で学校に向かった。
しかし、その日は学校までたどり着けず、駅で一夜を明かした。
明くる日、遠くの体育館に避難した。
この時、祖母のお腹には赤ちゃんがいた。中には多くの人達で溢れかえっていたが、中にいた人が入れる場所を拵えてくれたので、祖母達は腰をおろした。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
「何かあったら言って下さいね」
大変で辛い中でも、優しさと助け合いで、祖父母達一家の避難所生活が始まった。
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