【KAC20254】ヤケたトリの降臨

ジャック(JTW)🐱🐾

イノチトリの降臨

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 夢で9回見ると死んでしまうという伝説のイノチトリ。命を取るという言葉が由来するその伝説のトリの姿は……何処からどう見てもであった。

 美味しい、もとい、雄々しいイノチトリの降臨。

 

(伝説のトリとかいうならもっと神々しくあれよ! 何で調理済みなんだよ! 無駄に腹が減るだろ!)

 

 *


 何故、摂津雄大の夢の中にイノチトリが現れたのかというと、彼が交通事故で祠を壊したからである。しかし彼は、出来うる限りの償いをした。私費で修理を行い謝罪行脚に通った。

 それでも尚、現れ続けたのだ。

 フライドチキンの姿として。9回も。


(うっ……)


 神性を持った神としての威圧感が彼の心を萎縮させる。彼が、声に出して突っ込みが出来ないのもそのせいだ。しかし、意を決した彼は深呼吸をしてイノチトリに頭を下げた。


(交通事故とはいえ、祠を壊して悪かった! おれに償えることがあったら、教えてくれよ、そろそろ!)


 イノチトリは静かに彼を見ている(気がした)。ふわふわと浮遊して、摂津雄大の方に近づいてくる。近づいてくるにつれて、スパイシーな匂いが摂津雄大の鼻をくすぐった。


(無駄にスパイス仕込んでんじゃねええ!)


 摂津雄大は心のなかで叫ぶ。彼の心の揺れなど感知していないかのようにイノチトリはゆっくりと近づき摂津雄大の耳元に囁いた。


『祠、直してくれて有難う。妾、もう怒っておらぬよ』

「……へっ?」


 先ほどまでの威圧感は消えうせて、普通に喋れるようになっていることに彼は驚いた。


「赦してくれてありがとな。でも、なんでフライドチキンの格好なんだよ!」

『妾はこの世で最も愛されているトリの姿になる』

「確かに食わせてくれてありがてえ存在だけれども!」


 イノチトリは首らしき部分を傾げた。


『……この姿でいると何かマズイ?』

「マズくはねえよ。美味うめえよ」

『ならばよい』

「いいのかよ」

『では、たまには祠にお供え物を供えるべし』

「おう。お供え物って、何持ってくりゃいいんだ?」

『……


 摂津雄大は盛大にずっこけた。


「共食いじゃねーか!!!」

 


 そして、摂津雄大は、飛び起きて訂正した。


「……いや、共食いじゃねえわ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20254】ヤケたトリの降臨 ジャック(JTW)🐱🐾 @JackTheWriter

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ