安らぎを求めて

老はな

序章

朝9時から夕方5時までのホームセンターでの仕事を終え、休む間もなくホテルのベッドメイクの仕事をこなし、時計の針はすでに深夜1時を過ぎている。


アスファルトに沈む足裏は、まるで泥濘を踏みしめているかのようだった。


鈍く疼き、痺れる筋肉は、悲鳴を上げている。

もうこれ以上、疲労を溜め込むことはできないと、身体が悲痛な叫びをあげていた。


リュックの中で鍵を探る指先は、焦燥感にも似たもどかしさに苛まれていた。


早春の3月とは言え夜の気温は、昼間の喧騒が嘘のように、辺りを森閑と静まり返らせ、その静けさが一層、孤独を際立たせる。


息を吐くたびに、白い蒸気が闇に溶けていく。

街灯の光さえも、この深い孤独を照らし出すにはあまりに弱々しく、海冴の影は、アスファルトに長く伸びて、まるで彼女の絶望を象徴しているかのようだった。


鍵を見つけなければ、この冷たい夜をどこで過ごせばいいのか。考えるだけで、身体の奥底から冷たいものが這い上がってくる。それは、疲労からくるものなのか、それとも、心の奥底に潜む、拭い去れない孤独感からくるものなのか。もはや、彼女自身にも分からなかった。


鍵を見つけ、扉を開け、温かい部屋に辿り着く。ただ、それだけのことが、今の彼女にとっては、途方もなく遠い道のりのように感じられた。


不意に、リュックの奥底に横たわる携帯から、微かなバイブの振動が指先に伝わった。

その瞬間、凍てついたアスファルトに亀裂が走ったかのように、海冴の内に溜まっていた鉛色の雲が、一瞬にして晴れ渡った。



「誰かが、私をスワイプしたんだ。」



アプリには、見知らぬ男性が、海冴のプロフィールに興味を持ち、画面を右に滑らせると、まるで希望の光が灯ったかのような通知音が鳴る設定になっている。


乾ききっていた心が、急速に水分を取り戻していくように、心臓の鼓動が高まっていく。


アパートのドアの前で、ようやく鍵を見つけた。

冷え切った金属の感触が、指先に痛いほどだった。鍵穴に鍵を差し込み、勢いよくドアを開け放つ。急いで靴を脱ぎ捨て、部屋の灯りをつけた。


そこは、誰もいない小さな四畳半の部屋だった。家具と呼べるものは、古びたこたつと、乱雑に物が詰め込まれたカラーボックスだけ。

生活感の薄い部屋は、まるで海冴の心の空白を象徴しているかのようだった。


それでも、こたつのスイッチをオンにすると、じんわりと暖かさが足を包み込み、わずかな安らぎを与えた。

その束の間の安堵に身を委ねる間もなく、海冴は待ち焦がれていたアプリを起動した。

画面に映し出されたのは、見知らぬ男性のプロフィール写真。

その写真に、海冴の瞳が吸い寄せられていく。

「今度の人は、どんな人だろうか。」

期待と不安が入り混じった感情が、海冴の胸の中で渦巻いていた。

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