勉強会

舞衣のいる教室の廊下はいつもより騒がしかった。

「おいっ、お前らっ」

昴を除いた 3人が、ある男子生徒に追いかけられていたからだ。

「...何あれ」

美琴が疑問を投げたが、舞衣も分からなかった。

「って、追いかけてんの小豆沢じゃん」

美琴が言った通り、 3人を追いかけているのは舞衣のクラスの男子学級委員、小豆沢理人〈あずさわりひと〉であった。

「小豆沢ー、朝から鬼ごっこかいな」

理人が足を止めた。

「俺だってやりたくてやってるわけじゃないっ。あいつら...。ったくもう」

理人はまた走って行った。

「学級委員も大変だなぁ」

教室に入ると、昴が席に座ってスマホをいじっていた。

「おはよう、菊葉くん」

「おはよう、藤咲さん」

やっと目が合うようになった昴に、舞衣が質問した。

「さっき 3人が理人に追いかけられてたけど、なんかあった?」

「えー、提出物、だと思う」

「提出物?」

「あいつら、提出物出さないから。この学校、提出物出すの学級委員だから、それで出せって言われてるんじゃない?」

成程、と舞衣は腑に落ちた。一緒に聞いていた美琴が爆笑している。

「そんなに面白い?」

「いやっ、小豆沢が...あんな走ってんの...普通にツボなんだよね...ふはっ」

確かに小豆沢はメガネで長身で、運動神経は良くなさそうな男子ではある。

「...」

舞衣は少し考え込む表情になっていた。


放課後、舞衣はカバンを肩から提げた。

「藤咲ちゃん!今日もゲームしにいっていい?」

「...藁科くん、1週間後テストだよ?」

「え?あー確かに藤咲ちゃん、最近一緒にゲームやんないね」

「そういうことじゃなくて...」

4人はキョトンとした顔をしている。

「だから今日は家で勉強!」

「「「「えー」」」」

「なんでそこだけ息ぴったりなの?」

すると、秀が「舞衣ん家で勉強したらいいんじゃない?」と提案した。

その提案に 3人が賛同した。そして、4人が舞衣の方を向いた。

「...いいけど、私教えるのそんな上手くないよ?」

「いいからいいから」

5人は学校を出た。

舞衣の部屋に着くと、ちょっとした長机を囲むように座った。

「とりあえず、みんなわからない教科はある?」

「数A」

「「「全部」」」

秀以外全部だった。

「みんな...。じゃあまず、秀から1人ずつ教えていくね。」

秀は数Aを、秀以外の 3人は全部を教えた。

「よし、とりあえずこんなとこかな。どうしよっか、明日もやる?」

4人は顔を見合わせた。

「「「「やる!」」」」


舞衣先生の勉強会で1週間が過ぎ、2週間後、テストが帰ってきた。

「みんなー、テストどうだった?」

4人はテストを舞衣に見せた。

「えっすごい!赤点回避!」

舞衣はほっとし、自分のことのように喜んだ。

「良かったー。あ、舞衣は大丈夫?俺らに教えてて勉強出来なかったとかだと申し訳ないんだけど」

「あーうん。大丈夫!」

舞衣は4人にテストを見せた。

「え、歴史93点...?」

「それ以外は75点以上...?」

4人は舞衣の凄さを知ると同時になんだか恐怖を感じた。

「ていうかそこの3人、提出物出してないって聞いたけど、出しなよ」

「「「いや、それはちょっと...」」」

「何だって?」

「げっ、小豆沢」

3人は理人から叱責を受けることになった。

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