あこがれ

野林緑里

第1話

 私にも「あこがれ」がある。


 友達のみわちゃん


 元気で明るくて運動神経抜群でみんなの人気者。


 運動音痴な私にとっては本当に彼女のようになりたいと憧れを抱いている。


 あとまいちゃん


 しっかりもので成績優秀で学級委員を務める彼女はおっちゃこちょいの私にとっては彼女のようになりたいと憧れている。


 男の子だったらやっぱり大くんかなあ。


 大くんはそんなに身長が高いわけではないけどものすごくイケメンで優しい人なの。


 正直優しい人間ではない私にとっては彼のようになりたいとあこがれているのと同時に彼のような人がそばにいてくれたらなあと思ってしまうわけなの。


 え?


 大くんに恋してる?


 そんなんじゃないよ。


 みわちゃんやまいちゃんと変わらないよ。


 ただのあこがれというやつなだけよ。


 ただのあこがれ。


 小学1年の頃に初めて会ったときからずっとあこがれていた男の子だよ。


 それとね。


 逆にこいつみたいになりまくないというやつもいる。


 大くんの友達の哲也くん。


 大くんとは違ってものすごくガサツで乱暴者。


 偉そうでいつも不機嫌な顔をしている。


 だから見るだけでムカついてくるわけよ。


 どうしてあんなやつが同じクラスなんだろう。


 嫌だなあ。


 どうしてあこがれの大くんと友達なんだろう?


 信じられないよ。


「なにいってんの?私はあこがれるけどなあ」


 そんなことを話しているとあこがれの友達みわちゃんが突然そんなことを言い出した。


「ほほお、みわちゃん。てつやくんが好きなの?」


 まいちゃんが楽しそうにいうとなんとみわちゃんがほっぺたを真っ赤にする。



 ええええええ!


 ありえない!  


 あいつ最悪じゃん!


 すごーく悪ガキじゃん!


 まさかの出来事に私の心は取り乱す。


 あこがれのみわちゃんが好きな人がぜったいになりたくない男の子だっていう衝撃。


 あこがれの大くんがぜったいにあこがれを抱くはずのない男の子と友達という疑念。


 私はありえないことじゃないと思えてならない。



「まあ。分からなくもないけどね。てつやくんってリーダー格で皆のまとめているし、なによりも身長も高くて運動神経もよい! 欠点といえば勉強できないことと口が悪いことぐらいかなあ」


 いやいやいや。


 なんかまいちゃんもやつを褒めてないか?



 運動神経いいのは認めるし身長もわたしよりも高いのも認める。


 でもねえ。


 口が悪いんじゃない!


 悪すぎるんだよ!


 なんかモヤモヤするううう!


「俺、お前にものすごくあこがれてたんだよね」



 そんなある日突然てつやくんが私にそんなことを言い出した。


「だってお前、人付き合い得意じゃん。俺って不器用だからそんなお前みたいになりたいなあなんて思ってあこがれていたんだよね」


 てつやくんは気恥ずかしそうな顔をして言う。


 うーん。


 こいつにはぜったいにあこがれを抱くことはないけど、


 こいつにあこがれ抱かれるのは悪い気はしないかな。






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あこがれ 野林緑里 @gswolf0718

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